2020.12.10
大物たちの名前が浮かんでは消えた監督探し
ファーストルック契約から解放されたフェルドマンは、片っ端からメジャースタジオの門を叩いた。まずワーナーに却下され、MGMの重役は「フォードに演技なんかできない」と言い放った。ユニバーサルはフォードの方から願い下げだった。ある作品で主演に決まりかけていたのに、メル・ギブソンにすげ替えられた苦い経験があったからだ(おそらくマーク・ライデル監督『ザ・リバー』(84)のことだと思われる)。
『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(81)を手掛けていたパラマウント映画だけが脚本を気に入り、フォードの主演にもゴーサインを出した。しかしフェルドマンは、今度は監督探しに大いに苦労することになる。
『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』予告
監督の第一候補はピーター・ウィアーだった。オーストラリア人でハリウッドでは無名に近かったが、フェルドマンはメル・ギブソン主演の『危険な年』(82)を観てその才能に惚れ込んでいたのだ。ところがウィアーにはすでに別口でハリウッドから声がかかっていた。ワーナーでポール・セローの小説『モスキート・コースト』を映画化することになっており、準備のために中米に長期滞在していたのだ。
仕方なくフェルドマンは別の監督を模索する。『ブリット』(68)のピーター・イェーツは興味を示したのに都合が合わず、『俺たちに明日はない』(67)のアーサー・ペンや、当時はテレビで活躍していたエドワード・ズウィックはパラマウントから却下された。ジョン・バダムは「またお決まりの刑事ものか」とはねつけた(後に猛省している)。パラマウントが推した英国人監督はフェルドマンが気に入らなかった。マーティン・スコセッシもオファーを受けたが、モチベーションを見つけられずに断っている。
監督探しを初めて半年が経っていた。もはや八方手塞がりと思われたところに、フェルドマンはワーナーの知人からウィアーの『モスキート・コースト』が資金難で制作中止になったという情報を得る。シドニーに戻っていたウィアーに慌てて脚本を送り、4日後には電話で「OK」の返事をもらった。ウィアーもまた、200年前とほとんど変わらぬ暮らしを送っているというアーミッシュの存在に興味をそそられたのだ。
ようやく監督と主演スターと脚本がそろった時には、事態は待ったなしの状態になっていた。全米監督協会のストライキが5ヶ月後に迫っており、なんとしてもそれまでに撮影を終えなくてはならなかったからだ。ウィアーに与えられた準備期間は、わずか10週間しかなかった。