(C) 1982 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.
『キャット・ピープル』ポール・シュレイダーが熱望した海外アーティストとのコラボレーション
衣装もメイクもカメラアングルまで決めることができる視覚顧問
1970年代後半、ユニバーサルスタジオは『遊星からの物体X』(82)など、古典的SF映画のリメイクを手がけており、そのラインナップに『キャット・ピープル』(42)も入っていた。
後年、『フラッシュダンス』(83)、『ビバリーヒルズコップ』(84)、『トップガン』(86)など超特大ヒットを手がけ、ハリウッドで巨大な力を持つことになる若きプロデューサー、ジェリー・ブラッカイマー。『キャット・ピープル』は、彼が『アメリカン・ジゴロ』で組んだポール・シュレイダーにまたも声をかけて始まったプロジェクトだった。
オリジナル版『キャット・ピープル』(42)は、猫や豹など動物的モチーフを主人公の妄想や精神的病理の原因として扱い、直接的な表現を避けたサイコホラーであった。そのオリジナル版に基づいて書かれた脚本があったが、ポール・シュレイダーはより直接的な視覚的アプローチをとり、豹と人間が交わる一族のストーリーに変更する。性的興奮を味わうと人間から豹に姿を変え、殺人を犯せば人間の姿に戻るという、ぶっ飛んだ設定のエロティックホラーを作ろうとしていた。
『キャット・ピープル』(C) 1982 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.
ポール・シュレイダーにとって、自分で脚本を書かず、演出だけに専念できる立場は、物語やテーマ性にこだわらなくて済み、視覚的なユニークさの実現に専念できるいい機会であった。前作『アメリカン・ジゴロ』で固まった三人、監督ポール・シュレイダー、撮影監督ジョン・ベイリー、そして美術監督のフェルディナンド・スカルフィオッティらは、自分たちならではの視覚言語でホラー映画を作ろうとした。色彩やデザインを突き詰めて、画で物語を語ろうとしたのである。
フェルディナンド・スカルフィオッティは、本作での影響力は絶大だった。視覚顧問という特殊な肩書きの元、現場の進行具合が気に入らなければその場で撮影をストップする権限が彼にはあった。完成するまでセットは誰にも見せず、完成するとセットに連れて行かれてどの角度から見るために作ったかを彼が説明する。アングルの優先順位をなんとフェルディナンドが決めているのだ。
劇中に出てくる動物園は、ユニバーサルスタジオに巨大なセットを作り、縦横無尽のカメラワークを可能にした。そしてきわめつけは、衣装もメイクもフェルディナンドの指揮下にあった点である。作品を貫く二つのテーマカラー、サーモンピンクとライムグリーンを軸に全ての要素を決めていき、視覚言語を紡いでいく。組合の力の強いハリウッドの現場にあって、職の領域を超えることは非常識であり、イタリア人でありゲイでもあるスカルフィオッティへのスタッフからの当たりは相当だったようだ。しかしポール・シュレイダーは彼を誹謗中傷から守り抜くスタンスを取った。この経験が、のちの映画に繋がっていくのだ。
また、今では大規模メジャー映画の印象しかないジェリー・ブラッカイマーが、ポール・シュレイダーに寄り添い、常識外のスタッフィングに理解を示していたことにも驚くばかりだ。