2021.04.20
※本記事は物語の結末に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。
『ザ・シークレット・サービス』あらすじ
ダラスでのJFK暗殺の現場に配属されながらそれを阻止できず、今でも罪の意識にさいなまれ続けるベテラン警護官のフランク・ホリガン。ある日、定年間近となった彼のもとに大統領暗殺を予告する1本の電話が入る……。
Index
- プロデューサーの少年時代の記憶から生まれた企画
- 大統領を守れなかった男、クリント・ヒル
- 御大イーストウッド、怪優マルコヴィッチのキャスティング
- 常に権力の中枢に身を置くイーストウッド
- 国家を信ずる者ミッチと、国家を信じざる者フランク
プロデューサーの少年時代の記憶から生まれた企画
デビュー当時からイーストウッドは、屈強な肉体を武器に不死身のヒーローを演じ続けてきた。だが、1930年生まれの彼が還暦を迎える90年代以降、少しずつその役柄にも“老い”が忍び寄ってくる。『目撃』(97)では寄る年並みに勝てず老眼鏡をかけ、『スペース カウボーイ』(00)では宇宙に旅立とうとして「ライプ(老齢の)スタッフ」と揶揄され、『ブラッド・ワーク』(02)に至っては心臓麻痺を起こしてしまう始末。
そして、ジョン・F・ケネディを守ることができなかったシークレット・サービスのベテラン・エージェントが、大統領暗殺を企む暗殺者と対決する『ザ・シークレット・サービス』(93)も、そのライン上にある作品だ。ジョン・マルコヴィッチ演じる暗殺者を追いかければ、すぐに息が上がってしまう。オフィスで昼寝していたら、心臓発作と勘違いされてしまう。イーストウッドが“老い”という主題に真正面から向き合った、最初期の作品といえるだろう。
『ザ・シークレット・サービス』予告
だもんで、てっきり本作はイーストウッドの手による企画だと筆者は思い込んでいた。だが実際には、映画製作者ジェフ・アップルの少年時代の記憶から生まれたもの。当初はJFKや老エージェントという設定すら存在しなかったのである。キッカケとなったのは1964年、マイアミでの出来事。時の大統領リンドン・ジョンソンを乗せた専用車が、ダウンタウンを走り抜けていく。ジョンソンを取り囲むように警護する、シークレット・サービスのエージェントたち。その威風堂々たる姿に、ジェフ・アップル少年はいたく感激する。なんてカッコイイんだろう!
やがてロサンゼルスで映画製作会社を興したアップルは、いまだ脳裏に焼きついているシークレット・サービスの映画を撮ろうと決意。大学の同級生だったケン・フリードマンにシナリオ開発を依頼し、およそ1年半という歳月をかけて何とか完成。満を持してハリウッドに売り込みをかける。
興味を示したのは、コロンビア・ピクチャーズ。主演はダスティン・ホフマン、監督には『アガサ 愛の失踪事件』(79)や『歌え!ロレッタ愛のために』(80)で知られるマイケル・アプテッドという、超一流の布陣で企画が始動する。遂に長年の夢が叶った!…と思ったのも束の間、その一週間後にコロンビアの経営陣が交代。あっさり約束が反故にされてしまう。