『ハリーとトント』あらすじ
アパートの立ち退きを余儀なくされた老人ハリーと老猫トントが、住む場所を求めてアメリカ国内を旅する。目指すのは離れて暮らす子供たちの元。今や誰もがすっかり中年となり、個々の悩みや問題を抱えながら生きている。それゆえ父の訪問を温かく迎えはするものの、実生活は自分のことで精一杯。最終的にハリーは「ここではないな」と自らその場を辞し、新たな訪問先を目指して転々としていくーーー。
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名優に主演男優賞オスカーをもたらした珠玉の一作
映画の歴史には、その最初の1ページ目から「動物と人間」との関係があふれている。
リュミエール兄弟が最初に上映した「La Sortie de l'usine Lumière à Lyon(工場の出口)」という作品には、おびただしい数の人の流れとともに犬と馬の姿が印象的に映り込んでいるし、他にも同兄弟が1900年に製作した「La petite fille et son chat(少女と猫)」という作品では、タイトル通りの幼い少女と愛猫が、狭い構図の中を所狭しと戯れ合う様子が実にダイナミックに刻まれている。
ならば、それから70年以上経って生まれた名作『ハリーとトント』(74)にも、同様のジャンルの遺伝子が少なからず受け継がれているのだろうか。
本作は、アパートの立ち退きを余儀なくされた老人ハリーと老猫トントが、新たな住処を求めてアメリカ国内を転々と旅する物語だ。トントはそれほど出番が多いわけではない。でも、いつもそこにいる。そうやって、時には良いタイミングでニャアと鳴き、またある時はいちばん肝心な場面でふところからヒョイと逃げ出し、主人公を”有意義な回り道”へといざなったりもする。
『ハリーとトント』予告
そして特筆すべきは、本作が昔からよく言われる「どんな名優も動物には敵わない」というジンクスを見事に覆したことに尽きる。というのも、主演を務めた名優アート・カーニーはこの役柄で多くの観客を魅了し、その結果、1975年のアカデミー賞で主演男優賞を獲得したのである。
当時の候補者を見るとーーーー『ゴッドファーザーPartⅡ』(74)のアル・パチーノ、『オリエント急行殺人事件』(74)のアルバート・フィニー、『レニー・ブルース』(74)のダスティン・ホフマン、『チャイナタウン』(74)のジャック・ニコルソンという錚々たる顔ぶれ。彼らを制しての受賞ということは、これはもう大金星という他ない。