『白雪姫』からインスパイアされた色彩設計
『サスペリア』の特徴のもう一つは、まるで宝石のように鮮やかな色彩設計だろう。ダリオ・アルジェントは、超自然的モチーフを扱った作品を初めて手がけるにあたり、『白雪姫』(37)を参考にした。光の三原色(赤、青、黄)が印象的なこの作品は、何とディズニー・アニメからインスパイアされていたのである。
アルジェントは、当時ほとんど使われなくなっていたコダックの「スリーバック」というフィルムをわざわざ中国から取り寄せて、撮影に臨んだ。低感度のフィルムのため照明を大量に焚く必要があり、現像の段階でも色を抜いたり強調させたりと作業は難航を極めたが、その効果は絶大。煌めくような色彩の美しさが、『サスペリア』をアート・フィルムのごとき佇まいに仕立てている。おそらくアルジェントは、幻想的な物語を描くにあたっては幻想的な絵作りが必要と考えたのだろう。『サスペリア』は、光の三原色に彩られた血みどろの『白雪姫』なのである。
『サスペリア』は、2018年にルカ・グァダニーノ監督に手によってリメイクされている。しかしこの作品に、アルジェント本人はいたって不満のご様子。
『サスペリア(18)』予告
インタビュアー「最近のアメリカでは、アーティスティックなホラーや知的なホラーが増えてきています。最近、ルカ・グァダニーノ監督が『サスペリア』をリメイクしましたが、これについてはどう思われますか?」
アルジェント「私には『サスペリア』のリメイク版は、よくできたプロジェクトには見えません。恐怖、音楽、緊張感、そして舞台装置の創造性が欠けています。『ゲット・アウト』や『ヘレディタリー/継承』のような映画は、映像の美しさ、プロット、プロダクションの素晴らしさで私を驚かせてくれました」(interviewmagazine.comのインタビューより抜粋)
ダリオ・アルジェントを最も苛立たせたのは、オリジナル版には濃厚に刻印されていた幻想性の欠如だったのだろう。そしてその幻想性こそが、ホラーにおいて最も重要なファクターであると、彼は信じきっているのである。
参考:「ダリオ・アルジェント―恐怖の幾何学」矢澤 利弘 (著) ABC出版
文:竹島ルイ
ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。
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