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『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』創造的な挑発を持つ“永遠の人物”

© PUNK SPIRIT HOLDINGS PTY LTD, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, ASIA FILM INVESTMENT GROUP LTD AND SCREEN AUSTRALIA 2019

『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』創造的な挑発を持つ“永遠の人物”

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ミック・ジャガーが本気で取り組んだ『太陽の果てに青春を』



 ミック・ジャガーは言わずと知れたザ・ローリング・ストーンズのヴォーカリスト。そんな彼が25歳(~26歳にかけて)撮影されたのが『太陽の果てに青春を』。日本では埋もれていて、今はタイトルを知らない人も多いだろう(ビデオ化の時は『ミック・ジャガー/ネッド・ケリー』のタイトルで出た)。監督は『トム・ジョーンズの冒険』(63)でオスカー受賞の英国の名監督、トニー・リチャードソン。


 英国で映画化の話が出たのは60年代前半で、その時は『土曜の夜と日曜の朝』(60)のカレル・ライスが監督予定。主演はこの映画で新世代のスターとなったアルバート・フィニーが考えられていた。アラン・シリトー原作の『土曜の夜と日曜の朝』は、英国では時代を変えた一作となり、<怒れる若者たち>という新しいムーブメントが起きた。この映画の製作者、トニー・リチャードソンや監督のライスは運動の中心人物。結局、ライスのネッド・ケリー映画は実現せず、リチャードソンが70年に『太陽の果てに青春を』を監督することになった。


リチャードソンは同じシリトー原作の『長距離ランナーの孤独』(62)で、少年院に入った反逆児的な人物を鮮烈に描き出していた。そんな流れで考えると、反権力者として知られたケリーの人生の映画化も納得できる。


『長距離ランナーの孤独』予告


 93年に出た彼の自伝“Long Distance Runner”(Faber and Faber刊、日本ではかつて「長距離ランナーの遺言:映画監督トニー・リチャードソン自伝」という邦題で翻訳も出た)によると、60年代前半にオーストラリアの画家、シドニー・ノーラン(1917~1992)が描いたネッド・ケリーの絵画の回顧展がロンドンで開かれた。ノーランがこうした一連のケリー・シリーズを制作したのは40年代後半で、そこで描かれたオーストラリアの原風景やバケツのような防護品をかぶったネッド像が大きな話題を呼んだ(色彩が印象的な絵となっている)。


 ノーラン自身はその絵にアウトサイダー的な自身の心情も込めて描いたといわれている。60年代に<怒れる若者たち>の象徴だったリチャードソンやライスは、おそらく自身の作っている映画の主人公と重なるものを彼の絵に発見して、ネッドの映画を企画したのだろう。


 リチャードソンのネッド・ケリー映画は、キャスティングが難航したようだが、最終的にザ・ローリング・ストーンズのミック・ジャガーを主演にして『太陽の果てに青春を』を撮ることになった。当時、ミックは俳優という仕事にすごく興味を持っていて、リチャードソンもストーンズのファンだったという。ステージで見せるミックの肉体のエネルギーを演技にも期待したが、「それは間違いだった」と自伝の中で書いている。


 「ミックの顔は役にふさわしかったが、肉体の動きには(ステージで見せる)力強さがなかった」(前述の本より)


 完成した映画は評価されず、ミックも演技者として飛躍できなかった。ミックには『パフォーマンス/青春の罠』(70、ニコラス・ローグ監督)というもう1本の主演作があり、こちらは最初の興行は失敗したものの、後に時代を変えた英国映画として本国では高い評価を得る。


 しかし、『太陽の果てに青春を』は埋もれたままだ。この映画は製作中から難航し、ケガ人が出たり、火事が起きたり、不運な出来事が続き、ミックの恋人役を演じる予定だった女優・歌手のマリアンヌ・フェイスフルは睡眠薬の飲みすぎで、こん睡状態に陥り、出演を断念した(当時、ミックの恋人で、ふたりの関係は崩壊していた、といわれる)。


 受難続きの製作だったが、リチャードソンはミックとの共同作業そのものは楽しんだようで、「ミックと一緒にいることは楽しく、彼はありったけの情熱と誠実さを役に注ぎ、心を打たれるものがあった」と自伝の中で回想している。


『太陽の果てに青春を』場面動画


 リチャードソンと一緒に脚本を書いているのはネッド・ケリー研究家として知られ、彼に関する伝記“A Short Life”も出版しているイアン・ジョーンズである。彼は80年にネッドを主人公にしたテレビシリーズ、“The Last Outlaw”(ジョン・ジャレット主演)の製作と脚本も担当している。


 リチャードソンの監督作でミックが演じるネッドは大衆には優しく、人々に愛される。しかし、結局は追いつめられ、「人生こんなものだ(Such is life)」という言葉を残しながら処刑される。


 けっして成功作ではないのだろうが、筆者自身はかつて古ぼけた名画座でこの映画と出会い、どこか忘れがたい印象も受けた(ネッド・ケリーの名前も初めて知った)。70年代のアメリカン・ニューシネマに通じる悲哀感と牧歌的な雰囲気があり、ミックの演技力を超えたカリスマ的な魅力には、やはり目を奪われた。


 とても地味な演技で、うまくもない。ただ、ヒゲが意外に似合っているし、紳士強盗と呼ばれた優しさも出ている。驚かされるのが、その目の美しさ。当時の彼はクスリづけの印象さえあったが、その瞳は澄んでいて、20代で青春をかけぬけたアウトローの純粋な思いが伝わる。ストーンズ・ファンにはレアなミックが見られる作品となっている。





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