© PUNK SPIRIT HOLDINGS PTY LTD, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, ASIA FILM INVESTMENT GROUP LTD AND SCREEN AUSTRALIA 2019
『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』創造的な挑発を持つ“永遠の人物”
2021.06.27
鮮烈な人間描写とオーストラリアの風景
そして、新しく上書きされたネッド・ケリー像が『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』。オーストラリア・アカデミー賞では12部門の候補となり、3部門(プロダクション・デザイン、衣装、ヘアー&メイクアップ)受賞。
これまでの2作とはまったく異なる、強烈な作風になっている。オーストラリアの原野の風景をとらえた映像が鮮烈で、枯れ木が並ぶ荒涼とした大地を、俯瞰ショットで捉えたカメラワークに衝撃を受ける。不安をあおるようなジェド・カーゼル(監督の弟)の音楽も効果的だ。人物描写も人間の残酷な部分をむき出しにしたような生々しい演出になっている。
『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』© PUNK SPIRIT HOLDINGS PTY LTD, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, ASIA FILM INVESTMENT GROUP LTD AND SCREEN AUSTRALIA 2019
原作はオーストラリアの作家ピーター・ケアリーの、ブッカー賞を受賞した00年の小説「ケリー・ギャングの真実の歴史」(早川書房刊、宮本陽子訳)。ケアリーは「オスカーとルシンダ」でもブッカー賞を受賞していて、こちらはレイフ・ファインズ、ケイト・ブランシェット主演、ジリアン・アームストロング監督で97年に映画化されている。
当時のブランシェットはまったく無名で、初めて見た時、その演技力に驚かされた。19世紀が舞台で、ファインズはまじめな性格でありながらもギャンブルにはまってしまう牧師、ブランシェットはギャンブル好きで事業家として成功する風変わりな女性の役。賭け事が好きな牧師と女性という、当時としては異端な人物像を描いた興味深い佳作だった。今回の作品も『オスカーとルシンダ』も世間からはずれたアウトサイダー像を描いているという点は共通している
『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』予告
今回のネッド・ケリー映画と前2作との大きな違いは少年時代の描写で、ネッドの人格形成の基礎となる壮絶なエピソードが盛り込まれていく(ヒース版にも少しだけ、過去を振り返る場面があった)。少年時代のネッドを演じる子役、オーランド・シュワルツは、目に力があり、ただ者ではない雰囲気が漂う。実在したオーストラリアの伝説の山賊、ハリー・パワー(1819~1891)と旅に出て、そこで強奪や人を殺す術を教えられる。ハリー・パワー(本名ヘンリー・ジョンソン)を演じるのは、ラッセル・クロウで、自らギターを弾きながら、「ハリー・パワーのワルツ」も歌ってみせる。
ゲスト出演的な扱いで、出番は短いが、(ますます肉がついた)クロウは強烈な存在感を見せる。彼はいつも文章を書いている。何を書いているのかネッドに聞かれ、彼は答える――「自分のストーリーだ。物語だけは残るからだ」。
ネッドのもうひとりの父親であり、師でもある彼と出会うことで、ネッドも自身の物語を書くようになる。この映画では(これから生まれる)ネッドの娘にあてた物語として彼の人生が綴られていく。