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『パリの灯は遠く』ジョゼフ・ロージー監督が投影した、歴史と記憶のかすかな連鎖

(c)Photofest / Getty Images

『パリの灯は遠く』ジョゼフ・ロージー監督が投影した、歴史と記憶のかすかな連鎖

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チリ・クーデーターの記憶



 ヴェル・ディヴ事件を再現しつつ、ひとつだけ、現実から大きく変更された点がある。実際の事件では、競輪場に集められた人々全員の衣服に、ユダヤ人だと特定するための「黄色い星」が付けられていた。映画では、その四分の一の人々しか星を付けていない。理由は、ただ歴史の再現をするのではなく、世界中で今起きつつあるあらゆる虐殺事件を想起させるため。


 一つの例としてロージーが挙げたのは、1973年9月にチリ、サンティアゴの屋内競技場で起きた虐殺事件。アジェンダ政権に対して軍事クーデターを起こした軍は、アジェンダ派と睨んだ人々を競技場に大勢収容し、虐殺した。殺された人々のなかには、シンガー・ソングライターで演劇人でもあったビクトル・ハラもいた。サンティアゴの競技場での虐殺事件は、後年、映画『ミッシング』(82)の中で描かれることになる。監督は、かつて『パリの灯は遠く』の企画を打診されたコスタ=ガヴラスだ。


『ミッシング』予告


 1942年のパリで起きたユダヤ人虐殺事件。1950年代のハリウッドでの赤狩り。1973年のチリの競技場で起きた惨劇。1975年末から翌年にかけて撮影されたこの映画には、3つの時代がかすかな連なりをもって投影された。





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