© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.
『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』ブラック・ウッドストックと呼ばれた伝説のフェスが伝えるもの
サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)
2021.08.26
革命を起こそうとしたカリスマ的アーティスト
さらにハイライトは続く。黒人と白人、男と女が混在するファンク・バンド、スライ・アンド・ザ・ファミリー・ストーンは、当時のアメリカで最もイケているグループだった。前年の秋にチャートのトップに上り詰めた“Everyday People”のパフォーマンスには、ハーレムの観客も驚いたようで、それは当時の観客のインタビューでも語られている。リードボーカルと呼べる者がおらず、メンバーが順番に歌を歌う。誰もがスポットライトを浴びる。当時では珍しいトランペット奏者の女性さえも。このバンドの存在が当時、革命的と思われたことにも納得がいく。
もうひとつ、コンサートのハイライトを挙げておきたい。ニーナ・シモンは1950~60年代に活躍した女性シンガー。HCF開催時は36歳で、チャートへの影響力を失っていたが、この頃には公民権運動の活動家として若者の尊敬を集めていた。そんな彼女が本編で披露する"To Be Young, Gifted and Black"は、この時点ではレコーディングされていない新曲だが、黒人のアイデンティティを賛美する歌詞が聴衆の心をとらえた。このコンサートの後、レコーディングされたこのナンバーはヒットを飛ばし、現在も多くのアーティストによって歌い継がれている。
『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.
他にも当時人気の絶頂にあった、ポップス界のボーカル・グループ、ザ・フィフス・ディメンションや、ラテンファンクの天才パーカッショニスト、レイ・バレット、ジャズ界の人気者アビー・リンカーンやマックス・ローチらが出演。ひと口にブラックミュージックと言っても多彩であることがわかるだろう。
カルチャーが盛り上がる背景には、必ずそれらに向かって驀進するアーティストの熱がある。1969年のそれは、社会の変革を求める人々の並々ならぬ情熱でもあった。『サマー・オブ・ソウル』は、そんな時代の熱気をとらえた貴重な記録なのだ。
文:相馬学
情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。
『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』
8月27日(金)全国公開
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
© 2021 20th Century Studios. All rights reserved.