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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』ギャングの生き様を通して描く20世紀アメリカの記憶

(c)Photofest / Getty Images

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』ギャングの生き様を通して描く20世紀アメリカの記憶

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“時の移ろい”を映し出すマンハッタン・ブリッジ



 筆者が『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』を見返すたびに感じるのは、“時の移ろい”という感覚だ。変わりゆくものと、決して変わらないもの。それを対比させることで、過ぎ去りし時代への郷愁がより一層深まる。おそらくレオーネは、そのあたりを計算に入れて映画を設計したのではないか。


 この映画では、1920年代、1930年代、1960年代の3つの時制がフラッシュバックする。遠景ショットがそこかしこにインサートされているのが印象的だが、常に主人公たちを見下ろしているのは、イーストリバーに架かるマンハッタン・ブリッジ。変わりゆくもの(=人間たち)と、決して変わらないもの(=マンハッタン・ブリッジ)が、一つの画面に収まっている。


 レオーネがビジュアル設計の参考にしたのが、エドワード・ホッパーやノーマン・ロックウェルの絵画だったという。彼らは独特の筆致で、都会に佇む市井の人々を描いた。筆者には、その感覚が『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』に息づいているような気がしてならない。物語のピントはヌードルスに焦点が当たっているけれども、カメラをぐいと引いてみれば、そこには多種多様な人々が暮らしている。この物語の本当の主人公は、ニューヨークという街そのものだ。



『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(c)Photofest / Getty Images


 “時の移ろい”演出でもう一つ筆者が感嘆したのは、ヌードルスとデボラが35年ぶりに再会するシーン。彼女は舞台終わりで、衣裳部屋で化粧を落としながら会話を交わす。つまり最初の時点で彼女はクレオパトラの真っ白な化粧に覆われていて、経年変化がわからない。“昔のままのデボラ”がそこに映し出されているのだ。そして彼女がメイクを落とすたびに、皮膚のシワが露わとなって“現在のデボラ”が姿を現す。見事な演出だ。


 『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』は、文字通り20世紀初頭のアメリカの記憶を壮麗なタッチで描いた作品だ。セルジオ・レオーネは、それが何よりも映画的であると信じていた。この稿の結びとして、彼自身の言葉を引用しよう。


「私が作ったのは、時間についての、記憶についての、そしてまた映画についての映画なのだ」(セルジオ・レオーネへのインタビューより引用※)


※出典:季刊リュミエール 1987年10月号



文:竹島ルイ

ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。



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