男と男の対決を盛り上げる鬼才の映像美学
ウーの映画には有名なトレードマークがいくつかある。たとえば、必ず鳩が飛ぶシーンが入っていること。本作では、クライマックスの教会の場面で、死地に向かうアーチャーとトロイの姿のバックで鳩が飛び交う。言うまでもなくウーは平和主義者であり、鳩にはその象徴という意味が込められているが、劇中ではそれが戦いの序曲のように機能し、本作でも強烈な印象を残す。
二丁拳銃による戦闘描写や、スローモーションの映像もウー監督のトレードマークだ。前者は、スピーディーな場面を盛り立てる要素で、とりわけ横っ飛びの姿勢で撃ちまくるキャラクターをとらえた場面はエキサイティング。そして後者は、それらの見せ場のほかに爆破や落下といった、ここぞという場面で効果的に取り入れられる。ウー監督のアクション演出はときに“オペラのようなバイオレンス”と表現されるが、本作での多彩な映像表現を目にすれば納得がいくだろう。
『フェィス/オフ』(c)Photofest / Getty Images
とりわけ美しいのは、トロイの仲間の瀟洒なマンションで繰り広げられる銃撃戦。アーチャーは幼い子どもをバトルの恐怖から守ろうと、ヘッドホンをかぶせて“虹の彼方に”を聞かせ、そのメロディはスローモーションの銃撃戦描写を美しく彩る。オリビア・ニュートン=ジョンが歌うこの曲の起用に関して、スタジオは楽曲使用料の支払いを拒否したため、ウーは自腹を切ってこの曲を使用。後にスタジオもその効果を認め、ウーに楽曲使用料を支払ったという。ちなみに、これと似た場面はウーの香港時代の快作『ハードボイルド 新・男たちの挽歌』(92)にもあるので、ぜひ見比べてみて欲しい。