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『ロビン・フッド』三つの『ロビン・フッド』と、ふたりのケヴィンの奇妙な関係

(c)Photofest / Getty Images

『ロビン・フッド』三つの『ロビン・フッド』と、ふたりのケヴィンの奇妙な関係

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<プロダクション・コンサルタント>が意味するもの



 『ロビン・フッド』のエンドロールには、<プロダクション・コンサルト>という見慣れない名称で、ケヴィン・コスナーの名前がクレジットされている。ここには、撮影中の因縁が関係しているのだ。4,800万ドルもの製作費と数百人のスタッフを抱える大規模な撮影現場。そして、母国を離れたイギリスやフランスにおける海外での慣れない撮影は、ケヴィン・レイノルズ監督にとって重荷になっていた。さらに、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』で“監督”を経験していたケヴィン・コスナーは、演出を巡ってレイノルズと議論を戦わせるようになっていた。監督としての実績がないレイノルズは、「コスナーの推薦で監督になった」という借りがあり、また映画会社にとって「望まれていない存在」だという負い目があった。20世紀フォックスからコスナーを引き抜くために、モーガン・クリークが友人であるレイノルズに監督させるという条件を提示したのだと判っていたのである。


 撮影が進むにつれ、ケヴィン・コスナーとケヴィン・レイノルズ監督の関係は悪化。例えば、コスナーがスタッフを率いて十字軍からロビンが帰還する場面の演出と撮影を行い、その間レイノルズは、コスナーが不在でも成立するような場面を撮影するという状態になっていた。さらにレイノルズは、編集から手を引くよう諭されたとも述懐。『ロビン・フッド』が公開された翌年のインタビューでは「悲しいけれど、ふたりの間には、かつてのような友情はない」と認めている。<プロダクション・コンサルタント>のクレジットは、コスナーが演出面の責任をとるために、いわば彼が「いくつかの場面で演出をした」という刻印なのである。



『ロビン・フッド』(c)Photofest / Getty Images


 とはいえ『ロビン・フッド』は、それまで観たことのないような<矢>の主観という奇抜なショットや壮大なロケーション、オーケストラを起用したマイケル・ケイメンの重厚な劇伴など、まだCGやデジタル技術が発達していない時代ならではの“映画的な魅力”にあふれている。今作の後、“ふたりのケヴィン”は『モアイの謎』(94)の製作(コスナー)と監督(レイノルズ)という関係を経て、『ウォーターワールド』(95)の演出を巡る諍いによって関係がさらに悪化。2012年のテレビミニシリーズ「宿敵 因縁のハットフィールド&マッコイ」で再度組むまで、ふたりの不和は17年間も続くこととなる。


 それゆえ、「もし、ケヴィン・コスナーが20世紀フォックス版のオファーを受けていたとしたら、或いは、トライスター版を引き受けていたらどうなっていたのだろう?」と夢想し、“ふたりのケヴィン”の友情に想いを馳せるのである。


【出典】

・『ロビン・フッド』 劇場パンフレット

・「秘められた野心 ケヴィン・コスナー物語」 ケルバン・キャディース著 小尾ちさほ・訳(シンコー・ミュージック刊)

・「ビルボード年間チャート60年の記録 1955〜2014」(共同通信社)

・BOX OFFICE MOJO 『DEEP IMPACT』 『ARMAGEDDON



文:松崎健夫

映画評論家 東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻修了。テレビ・映画の撮影現場を経て、映画専門の執筆業に転向。『ぷらすと』『japanぐる〜ヴ』などテレビ・ラジオ・ネット配信番組に出演中。『キネマ旬報』、『ELLE』、映画の劇場用パンフレットなどに多数寄稿。現在、キネマ旬報ベスト・テン選考委員、ELLEシネマ大賞、田辺・弁慶映画祭、京都国際映画祭クリエイターズ・ファクトリー部門の審査員を務めている。共著『現代映画用語事典』(キネマ旬報社)ほか。



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