『MONOS 猿と呼ばれし者たち』地獄のような神話世界によって問う人間の暴力性

高地で軍事訓練をしながらオーディション

　監督はコロンビア全土から800人以上の若者たちを集め、オーディションを行った。そして選抜された30人をアンデス山脈の高地に連れていき、そこで様々な訓練を行った。午前中は演技の指導、午後は武器の扱いなどの軍事教練を施したという。この過程もオーディションの続きだった。監督は訓練で、若者たちの言動や人間関係の構築の仕方を注意深く観察し、実際に出演する８人の若者を選んだ。

　選ばれた少年少女たちのほとんどは演技経験がなく、コロンビアの中でも治安が極度に悪い貧困地域で育った者もいた。実際にコロンビアでは、貧しさのあまりゲリラに身を投じる少年少女も多く、彼らは等身大で兵士役に入り込んでいったと言えるだろう。

『MONOS 猿と呼ばれし者たち』(c) Stela Cine, Campo, Lemming Film, Pandora, SnowGlobe, Film i Väst, Pando & Mutante Cine

　さらに少年少女たちを訓練し指導した、ウィルソン・サラザールという男性は、かつてコロンビアの左派ゲリラに所属し、しかも脱走したという壮絶な経歴の持ち主。そんな彼は劇中でも、少年少女たちを指揮する「メッセンジャー」を演じることになった（『フルメタル・ジャケット』(87)の指導教官役、リー・アーメイと同様の経緯だ）。

　このような、キャスティングが本作に異様な迫真性をもたらすことになったのは言うまでもない。そして、撮影現場の過酷さも、監督が志向した「実験」の精度をあげる結果をもたらした。

過酷な撮影環境が生み出した成果