(c) Stela Cine, Campo, Lemming Film, Pandora, SnowGlobe, Film i Väst, Pando & Mutante Cine
『MONOS 猿と呼ばれし者たち』地獄のような神話世界によって問う人間の暴力性
2021.11.11
隔絶された大自然の中で構築された神話世界
ランデス監督が表現した世界は、まるで神話のようにシンプルで極度に抽象化されている。そうした観点で本作を振り返ると、その舞台設定も象徴的である。
映画の前半は4千メートル級の高地で展開し、8人の少年少女たちは人質の「博士」と共に、コンクリート製の廃墟で暮らしている(なぜそんな高地にコンクリート製の巨大な廃墟があるのかは謎である)。彼ら以外には、部隊に指令を出すため時折訪れる「メッセンジャー」という上官がいるに過ぎない。
広大な山岳地帯は雲海をのぞむ、天空の世界だ。そこにそびえるコンクリートの廃墟は景色に不釣り合いなため、神殿のようにも見え、そこで無邪気に遊び興じる少年少女たちは、罪や穢れを知らない神話世界(暴力と死の匂いが横溢する不気味な楽園であるが)の住人に見える。しかし彼らは、ある事件をきっかけに、その楽園を追われることになる。
『MONOS 猿と呼ばれし者たち』(c) Stela Cine, Campo, Lemming Film, Pandora, SnowGlobe, Film i Väst, Pando & Mutante Cine
後半は、一転、むせ返るような緑に閉ざされたジャングルの中が舞台となる。ジャングルは樹木によって10メートル先も見えない迷路のような空間だ。そこはさながら「緑の監獄」となって、少年少女や人質の「博士」の精神を追い詰めていく。天井の楽園から、地上へと追放された彼らは、無垢性を失い、あるものは仲間を裏切り、あるものは権力欲にとりつかれ、人間社会の卑俗性にまみれていく。
こうした展開を確認するうちに想起されるのは、旧約聖書だ。ある禁忌を犯した彼らはアダムとイヴのごとく楽園を追放される。さらに地上で暮らすうち、嫉妬によって弟アベルを殺し、神に嘘をついたことで呪われてしまうカインの生き様をたどることにもなる。
このような神話的な世界観を表現するために、ランデス監督はキャスティング過程に強いこだわりを見せた。