緊迫の場面をコメディーに転化させる、イーライ・ウォラックの存在感
もともとテュコ役には、『荒野の用心棒』の悪役ラモン・ロホを演じたジャン・マリア・ヴォロンテが考えられていた。彼の真骨頂は、どこかサイコパスじみたマッド・アクト。精神のバランスを欠いた異常者を演じさせたら、天下一品の役者である。だが、セルジオ・レオーネは考えた。テュコ役に必要なのは異常性ではなく、底抜けの喜劇性なのではないか、と。そこで白羽の矢が立ったのが、イーライ・ウォラックだったのである。
アクターズ・スタジオの創立メンバーの1人でもあるウォラックは、マーロン・ブランド、モンゴメリー・クリフトらとメソッド演技法を学び、キャリア初期は舞台を中心に活躍していた俳優。その御面相からはやや意外だが、れっきとしたニューヨーク派アクターなのだ。エージェントから「イタリアの西部劇に出演することに興味があるか?」と尋ねられた時にも、マカロニ・ウェスタンなんぞ聞いたこともなく、「ハワイのピザみたいなもんだろう」くらいの感想しかなかったそうな。
「『続・夕陽のガンマン』にどうやって選ばれたのかはわからないけど、『荒野の七人』での私の演技を見てくれたんだろうね。他にも『西部開拓史』といった西部劇にも出演していたから、私が適任だと思ったんじゃないかな」(イーライ・ウォラックへのインタビューより引用)
『続・夕陽のガンマン』(c)Photofest / Getty Images
ギョロ目をチラつかせながら、大声でわめいたり怒鳴ったりするテュコを、イーライ・ウォラックはユーモアたっぷりに演じる。いや、彼の独特の存在感が、場をユーモラスに変えてしまう、といった方が正しいか。
例えば、彼が浴槽に入っているとギャングに急襲されるシーン。テュコは湯船に隠し持っていた銃で返り討ちを食らわすのだが、その時に発した「撃つときは撃て、喋るな!」のセリフに、スタッフ全員が大爆笑。実はコレ彼のアドリブで、ジョークではなくシリアスなセリフのつもりだったのだが、彼の佇まいが緊迫の場面をコメディーに転化させてしまったのだ。
おまけにウォラックは、このキャラクターにそこはかとないペーソスも注ぎ込む。その背中には、孤独感と寂寥感がべったりと張り付いているのだ。
「人間には2種類ある。大勢の友達がいる奴と俺様のように孤独な奴だ」
「俺と同じみなしごだな。独りぼっちだ」
「孤独」や「独りぼっち」という言葉がイーライ・ウォラックの口を衝いて出ると、なんといじらしいことか。我々観客は、テュコという小悪党にこのうえないチャーミングさを感じてしまうのである。