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『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』物語の完結と解放、MCU版スパイダーマンのさらなる跳躍

© & ™ 2021 MARVEL.

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』物語の完結と解放、MCU版スパイダーマンのさらなる跳躍

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MCU版ピーター・パーカーの特殊なアイデンティティ



 マーベル屈指の人気を誇るスパイダーマンは、これまでサム・ライミ監督による『スパイダーマン』3部作(02~07)と『アメイジング・スパイダーマン』2部作(12~14)の2度にわたり実写映画化されてきた。主演を務めたのは、それぞれトビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールド。本作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』に登場するヴィランは、これらの過去5作品でスパイダーマンと戦った強敵たちが時空を超えて現れたものだ。“マルチバース”の本格導入によって、ストーリーは史上最も複雑な設定となった。


 そもそもトム・ホランド演じるMCU版スパイダーマンは、過去の映画版スパイダーマンとは異なる特殊な立ち位置にある。初登場作『シビル・ウォー』から、アイアンマン/トニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr.)に見出された新人ヒーローとしてキャプテン・アメリカやファルコン、ウィンター・ソルジャーらとも一戦を交えた。あらかじめアベンジャーズという強力なヒーローチームがあり、彼らに憧れを抱くティーンエイジャーとしてMCUに参加したのである。ピーターはトニーをメンターとして成長し、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(18)『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19)では先輩に劣らぬ活躍ぶりを見せた。


『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』予告


 MCU版『スパイダーマン』シリーズと、ライミ版3部作&『アメイジング・スパイダーマン』2部作の間には、もうひとつの大きな違いが横たわっている。コミックのスパイダーマン/ピーター・パーカーには、育ての親であるベンおじさんを強盗に殺されたことでヒーローとしての責任に目覚めるというオリジン・ストーリーが存在するが(ベンおじさんの「大いなる力には大いなる責任が伴う」という台詞は有名だ)、MCU版ではこのオリジンが描かれていない。一方、ライミ版と『アメイジング・スパイダーマン』では――それぞれに物語の違いはあれど――ベンおじさんとピーターのエピソードがヒーローとしての覚醒に繋がる形で描かれてきた。


 “オリジンなきスパイダーマン”というMCU版のアプローチは、3度目の映画化ながら斬新なものだった。逆に言えば、今回のピーター・パーカーはひとりのヒーローとしてハッキリと確立する瞬間がないまま、がむしゃらに走り出したのである。事実、単独映画の第1作『スパイダーマン:ホームカミング』はそんな新人ヒーロー像をありのままに描き出す作品だった。なにしろ当時の彼は、クモの糸で高層ビルの間をスウィングするのではなく、時には文字通り地面を転がりながら走り回るスパイダーマンだったのだ。


 続く第2作『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』では、『アベンジャーズ/エンドゲーム』でメンターのトニーを失ったピーターの再出発が描かれた。大きな喪失を乗り越え、ヒーローとして、高校生として再び成長しようとするピーターの姿は、実体のつかめない巨大な敵(エレメンタルズ)に挑みかかる様子とオーバーラップしたのである。その先にあるのがミステリオとの対決であり、自分の正体が明るみに出るという結末だった。



『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』© & ™ 2021 MARVEL.


 これまで、ジョン・ワッツ監督によるMCU版の単独映画2作品は、おなじみのオリジンを直接描かない代わりに、ピーター・パーカーの成長をじっくりと掘り下げてきた。言いかえれば、描かれざるオリジンのテーマとメッセージを抽出し、物語を通じて間接的に語ることによって、スパイダーマンというヒーローの確立を描き続けてきたと言っていいだろう。


 3部作すべての脚本家であるクリス・マッケナ&エリック・ソマーズは、『スパイダーマン:ホームカミング』から『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』までを貫くものは、「ピーター・パーカーがスパイダーマンとしてのアイデンティティと格闘する」というテーマだと語る。本作は、そんなピーターの物語を締めくくる最終章。演じるトム・ホランドも「前作までのピーターはスパイダー“ボーイ”でしたが、今回は彼がスパイダー“マン”になる姿が描かれています」と述べた。MCU版スパイダーマン/ピーター・パーカーの特殊なアイデンティティに決着をつけるという意味で、この映画はまぎれもなく『ホームカミング』3部作の完結編なのだ。




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