2022.01.07
スパイダーマンのさらなる跳躍
冒頭にも触れたように、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』はサプライズに満ちた作品だ。しかも、その多くが有機的にストーリーと絡み合っているという稀有な例である(MCU作品としても非常に珍しい)。物語の内容に踏み込まない以上、どうしても作品の核心には触れられなくなってしまう。
しかし本稿でMCU版スパイダーマンの歴史を振り返ってきたのは、この文脈を踏まえておけば、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』という映画の、少なくとも『ホームカミング』3部作の完結編としての狙いはひとまず言葉にできるからだ。
すなわちそれは、最初は地面を転がっていたピーター・パーカーが、いかにして大都市の空を駆けるスパイダーマンになるのかということ。あるいは大物ヒーローに囲まれ、マルチバースの脅威にもさらされたスパイダーマンが、その中でいかにして自立する=自分自身の立ち位置を獲得するのかということ。もっと言えば、なぜ“親愛なる隣人”スパイダーマンはこれほど世界中で愛されるヒーローになったのかということだ。トム・ホランドが「今回は彼(ピーター・パーカー)がスパイダー“マン”になる姿が描かれている」と語ったことは、まさしくこうした主題に繋がっている。
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』© & ™ 2021 MARVEL.
MCU版スパイダーマンは、先に触れた通り、もともと特殊なポジションと背景を与えられた、実写映画としては特別なアイデンティティを持つスパイダーマンだった。しかし本作は、当時より複雑化した設定の中、物語の焦点をピーター・パーカーの成熟に絞ることで、その複雑さから彼を解放しようとする。その先に見えてくるのは、スパイダーマンというヒーローの最もシンプルな、そして最もプリミティブな姿だ。それはすなわち、スパイダーマン/ピーター・パーカーというヒーローに再び無限の可能性を与えることでもある。だからこそ『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は、これまで『アベンジャーズ』2作品も含めて描かれてきたMCU版スパイダーマンの物語を“ひとまず”終わらせられるのだ。
現時点で、スパイダーマンの物語が今後どのように展開していくかはわかっていない。しかしプロデューサーのエイミー・パスカルとマーベル・スタジオのケヴィン・ファイギ社長は、本作に続く物語の話し合いをすでに始めていることを認めているし、『スパイダーマン:ホームカミング』の前日譚となるアニメシリーズ「スパイダーマン:フレッシュマン・イヤー(原題)」がディズニープラスで配信されることも発表済みだ。きっと、スパイダーマンの物語はまだまだ終わらないのだろう。
[参考文献]
・『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』プレス資料
・'Spider-Man: No Way Home' Screenwriters on Tom Holland as Peter Parker - Variety
・The Future of ‘Spider-Man’ and the M.C.U., According to its Producers - The New York Times
文:稲垣貴俊
ライター/編集/ドラマトゥルク。映画・ドラマ・コミック・演劇・美術など領域を横断して執筆活動を展開。映画『TENET テネット』『ジョーカー』など劇場用プログラム寄稿、ウェブメディア編集、展覧会図録編集、ラジオ出演ほか。主な舞台作品に、PARCOプロデュース『藪原検校』トライストーン・エンタテイメント『少女仮面』ドラマトゥルク、木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談―通し上演―』『三人吉三』『勧進帳』補綴助手、KUNIO『グリークス』文芸。
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』を今すぐ予約する↓
『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』
2022年1月7日(金)全国ロードショー
© & ™ 2021 MARVEL.