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『アネット』レオス・カラックスの人生と深く結びつく「変奏」 ※注!ネタバレ含みます。

© 2020 CG Cinéma International / Théo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinéma / UGC Images /DETAiLFILM / Eurospace / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Télévisions belge) / Piano

『アネット』レオス・カラックスの人生と深く結びつく「変奏」 ※注!ネタバレ含みます。

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中断された夢想



 「歌うこと、笑わせること、それらは人々の前で自分を曝け出すことだ。そして歌うことが呼吸をすることなら、笑いは呼吸のアクシデントとでもいうものだ」(レオス・カラックス)*1


 レオス・カラックスの映画では夢想は中断される。『汚れた血』(86)において、デビッド・ボウイの「モダン・ラブ」に合わせて路上に開放されたアレックス(ドニ・ラヴァン)は、不意にそのダンスを中断される。このシーンの「変奏」といえる『ホーリー・モーターズ』のモーション・キャプチャーのシーンで、主人公は派手に転んでしまう。『ポーラⅩ』(99)でピエール(ギョーム・ドパルデュー)の運転するバイクが転倒するシーンを思い出してもいいだろう。転倒によってバイクのライトが割れたとき、それは『ポーラX』という作品が闇の森に向わんとする合図となっていた。レオス・カラックスは、運動そのものよりも、不意に中断されてしまった運動の断面を「震え」として画面に浮かび上がらせる。笑いが呼吸のアクシデントならば、『アネット』は、この「震え」の連続によって構成されている。



『アネット』© 2020 CG Cinéma International / Théo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinéma / UGC Images /DETAiLFILM / Eurospace / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Télévisions belge) / Piano


 舞台上でコール&レスポンスの芸を披露する『アネット』のヘンリーは、「なぜコメディアンに?」と観客から何度も問われる。質問に対する答えになっているとは言い難い、ヘンリーのレスポンスが続く。マイクをぶんぶん振り回す空を切る音声が会場に響き渡る、二度目のステージ。観客からの苦情に、ヘンリーがマイクスタンドを押し倒す。その鈍い音が劇場に響き渡るとき、それは転落への転調の「震え」となる。笑えないジョークが会場を凍り付かせる。問いによって更なる問いを生んでいく、レオス・カラックスらしいカオスが醸成されていく。それでもヘンリーは歌いながら挑発する。「笑え笑え笑え」。


 オープニングシーンで一旦止まったカメラは「"So May We Start"(では始めよう)」の合図と共に、歌詞に合わせて再び動きだす。レオス・カラックスと娘のナスティア・ゴルベワ・カラックスやスパークスの二人を含めた出演者は、次々と仲間の輪を広げ、歌いながらスタジオからストリートへ飛び出す。しかし、このなんとも開放的なオープニングシーンの最後には「始めるな」という警察の忠告が待っている。疑似ゲリラ撮影のようなオープニングシーンで、またしてもレオス・カラックスの作品は夢想を中断され、その「震え」を露出することになる。





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