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『アネット』レオス・カラックスの人生と深く結びつく「変奏」 ※注!ネタバレ含みます。

© 2020 CG Cinéma International / Théo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinéma / UGC Images /DETAiLFILM / Eurospace / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Télévisions belge) / Piano

『アネット』レオス・カラックスの人生と深く結びつく「変奏」 ※注!ネタバレ含みます。

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暴動としてのミュージカル



 最近パリで催された「レオス・カラックスへの白紙委任状」という企画上映では、ジャック・ドゥミによる『都会のひと部屋』(82)が選ばれている。ナントの労働者によるストライキがミュージカルとして描かれた作品だ。赤髪赤髭のミシェル・ピコリが着ている緑色のジャケットが、『TOKYO!』(08)でドニ・ラヴァンが演じたメルド氏や、『アネット』のヘンリーを想起させるのみならず、暴動と悲劇、大人数の労働者たちへの振り付けなどに、無意識レベルの源流をこの作品から読み取ることができる。


 『アネット』で描かれる、疑似ゲリラ撮影のようなストリートでのオープニングシーンは元より、アネット旋風が吹き起こる空港の群衆シーン。逮捕されたヘンリーに浴びせられる罵声のシーン。これらのシーンに、ミュージカル映画の変奏、いわば「暴動してのミュージカル映画」の意図を感じずにはいられない。



『アネット』© 2020 CG Cinéma International / Théo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinéma / UGC Images /DETAiLFILM / Eurospace / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Télévisions belge) / Piano


 さらに、ベビーベッドの中で光りを浴びて歌い出すアネットを発見するヘンリーは、『都会のひと部屋』における報われない恋人がベッドで幻視する悪夢(天井に影が走る)のイメージと重なり合っている。と同時に、このマジカルなシーンは、『ボーイ・ミーツ・ガール』(83)で、主人公が夜の闇に思い描いたミレーユ(ミレーユ・ペリエ)のタップダンスをどこか想起させる。幻視された星。それは赤ん坊がベビーベッドから眺めた「宇宙」とでもいうべきものだ。母親のアンが船内でアネットをあやすシーンでも、それは変奏されている。母子の背後には、あたかも玩具がひとりでに踊り出したような恐怖の予感が表出している。


 「暴動としてのミュージカル」の点において、ヘンリーとアンという二大スターに付きまとうマスコミにも同様に振り付けが施されている。特ダネを撮ろうと、あらゆる角度から踊りながら迫るカメラマンたちは、ヘンリーにヘルメットを脱ぐよう強い言葉で要求する。ヘンリーは決して「仮面」を外さずにおどけてみせる。騒々しい外の世界をよそに、二人はバイクに乗り疾走する。しがらみを振り切るかのように二人だけのテーマソングを歌いながら。「仮面」のヘンリーは、笑いで人を死なせてきたと語る。アンは死を演じることで人を救ってきたと語る。因果のような二人の関係性。本作の重要なテーマがここに浮上する。





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