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『アネット』レオス・カラックスの人生と深く結びつく「変奏」 ※注!ネタバレ含みます。

© 2020 CG Cinéma International / Théo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinéma / UGC Images /DETAiLFILM / Eurospace / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Télévisions belge) / Piano

『アネット』レオス・カラックスの人生と深く結びつく「変奏」 ※注!ネタバレ含みます。

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投げ出された傷跡



 「ボウイの曲にのって俳優が踊るというアイディアだけで十分なわけじゃない。俳優が身体で語りかけることができないとだめなんだ」(レオス・カラックス)*1


 『アネット』を破格の映画にしているのは、キャリアハイの演技と断言したくなるアダム・ドライバーの存在が大きい。露出された生身の身体、胸板の厚い筋肉質な造形。ドニ・ラヴァンがそうだったように、レオス・カラックスはアダム・ドライバーを剥き出しの状態へと導いていく。ヘンリーは、長身の身体に自分でも制御できない内なる魂を抱えている。ヘンリーの身体は怒りに突き動かされているように見える。怒りを「呪い」と言い換えてもいいかもしれない。


 ヘンリーはカメラに身体を投げかけている。投げ出された身体は、ジェスチャーによって未知なる言語を獲得する。象形文字としての映画言語がそこに生まれている。振り回されたマイクが拾う音は、それ自体が感情を表す言語になっている。撮影監督を務めたキャロリーヌ・シャンプティエは、アダム・ドライバーの本作への貢献を次のように語っている。


『アネット』© 2020 CG Cinéma International / Théo Films / Tribus P Films International / ARTE France Cinéma / UGC Images /DETAiLFILM / Eurospace / Scope Pictures / Wrong men / Rtbf (Télévisions belge) / Piano


 「アダム・ドライバーはヘンリーをダークに解釈することを選びました。彼の解釈です。アメリカの俳優は、自分の演技に責任を持っていますね。フランスで同じようにいくとは限りません。ここまでダークなキャラクターになったのは、本当にアダムの選択だと思います」(キャロリーヌ・シャンプティエ)*2


 怪物化していく身体。ヘンリーがモンスターの身振りをしながらおどけてアンに向かっていく姿に、過去の映画のイメージが重なっていく。『ポーラX』でカトリーヌ・ドヌーヴに向かって、「僕が醜かったら?」と言いながら怪物の身振りでおどけて見せた美しき青年ギョーム・ドパルデューのイメージだ。『ポーラⅩ』においても、主人公ピエールは内なる魂に大きな身体が追いつけず心身を粉々にしてしまった。そしてヘンリーによる剥き出しな身体の投げ出し方は、ベイビー・アネットと共振している。ひび割れさえ隠さず、敢えてパペットの材質が伝わるような「不完全な」赤ん坊が選択されている。ヘンリーの右頬にある痣のようにアネットの造形は予め傷ついている。


 アンはアネットを抱えてダンスする。常軌を逸すほど早いその回転は狂気を帯びている。ここでのマリオン・コティヤールの演技は素晴らしい。しかしアンがアネットをあやす狂気の回転ダンスは、ヘンリーのリードする船上のダンスによって反復される。相手を振り落とすほど早い回転。彼女はパペットのアネットと鏡像関係を結んでいる。


 「彼女をリアルに表現しようとしました。ライティングでは、本物の子供のような肌色を探しました。もちろん、パペットであることはお分かりいただけると思います。でも、レオスも私も全員がシリコンなどでごまかしたくなかったんです。本物のパペットで、本物の人形使いと一緒に撮影したほうが、より詩的で、より魅力的で、より勇敢になれるのです」(キャロリーヌ・シャンプティエ)*2





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