2022.04.07
パンデミック下の不自由に屈することはない!
2018年8月、スパークスは9度目の来日公演を果たした。東京・クラブクアトロでの公演で筆者は、エドガー・ライトが会場を歩き回っているのを目撃したが、このときの公演の模様も数秒ではあるが、本編中で見ることができる。「日本はこの映画の最初の撮影地だった。行きの飛行機内で眠ろうとしたら、エドガーがカメラを持って近づいてきたから眠れなかったよ」とラッセルは笑って振り返る。また本編中では、この来日時にメイル兄弟が柴又を散策する姿も収められている。これは彼らが『男はつらいよ』シリーズの大ファンだったから。「聖地巡礼は欠かさない」とロンは語る。
本編中のもっとも最近の映像は2020年、世界的なコロナ禍に包まれた暗い時期に、YouTubeで発信された新曲“All That”のビデオ。メイル兄弟とバックのメンバーがそれぞれ自宅で演奏し、それらが分割画面でまとめられ、ひとつの楽曲になる――正直に打ち明けると、出口の見えないパンデミックの中で、初めてネット上でこれを見た筆者は泣いてしまった。「ツアーもレコーディングもできない。でもパンデミックに支配されたくない。だったら、家でできることをやろうと思って“All That”のビデオを作った。不自由な状況に屈することはない。それを証明したかったんだ」と、ラッセルはこのときの状況を語ってくれた。
『スパークス・ブラザーズ』© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED
『スパークス・ブラザーズ』は、困難な状況に置かれても、決して歩みを止めなかったスパークスの姿勢をとらえた映画でもある。儲かるとか売れるとかにに左右されず、自分たちのやりたいことに忠実であろうとするアーティスティックな姿勢。「僕らはあくまでミュージシャンだし、人生の教訓を説くつもりはない。ただ、やるべきことをやってきて今がある。それだけのことだけれど、その“それだけ”をエドガーが映画に収めて、そこから観客が何かを感じてくれたのなら、僕らの強さを証明できたのかもしれない」と、ロンは語ってくれた。
湿っぽい話はスパークスらしくないので、あとは映画を見ていただきたい。『スパークス・ブラザーズ』のインタビュー映像中、“この先何枚のアルバムを作るのか?”と問われたラッセルは「医療技術が進歩したら200~300枚は出せたらいいな」とジョークで答えている。現在ロンは76歳、ラッセルは73歳。『アネット』の成功によって自信を得た彼らは映画製作の新たなアイデアを推し進めているという。一方で、音楽活動も精力的で、2022年4月の段階では全米をツアーで飛び回っている。取材時には、日本にもまた必ず行くと約束してくれた。ひょっとしたら、スパークスの黄金時代は、この先にあるのではないか!?
文:相馬学
情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。
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『スパークス・ブラザーズ』
4月8日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイント他全国公開
配給:パルコ ユニバーサル映画
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