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『ブレインストーム』困難を乗り越え作り上げたダグラス・トランブル監督作(後編)

(c)Photofest / Getty Images

『ブレインストーム』困難を乗り越え作り上げたダグラス・トランブル監督作(後編)

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ナタリー・ウッドの死



 実写の撮影終了を間近に控えた81年11月29日、ナタリー・ウッドがカタリナ島沖でボート遊びをしていて、事故死(*4)してしまう。MGMはすぐさまステージを閉鎖し、スタッフを全員解雇してしまった。そして、ロンドンのロイズ保険組合に製作中止を報告し、総予算となる1,500万ドルの保険金支払い要求を提出する。MGMの主張は、「ナタリーがいなくては、映画は完成させられない」ということだった。トランブルは、「ナタリーの出演シーンはほとんど撮り終えており、編集を少し修正するだけで映画は完成できる」と主張した。だがMGMは深刻な経営難に苦しんでおり、どうしても保険金の即時支払いが必要だったのである。


 仕方なくトランブルはロイズ側と直接交渉し、残りの撮影と編集の資金として、275万ドル提供の約束を取り付ける。ロイズとMGMは、本当に映画が完成しそうかどうかを判断するため、粗編集試写を行うことになる。しかし、上映前にMGMの重役たちが論争を始め、1フレームもフィルムを見ないまま試写室を出て行ってしまう。その後の数ヵ月間、不毛な訴訟が続いた。結局1年後、ようやくロイズ保険組合は映画の興行収益の分配を受けることを条件に、350万ドルの追加出資を行う。これにはVFX用の150万ドルが含まれていたが、これはEEGが要求していた額の半分であった。


*4 ナタリー・ウッドの死に関しては、本当に事故だったのかどうか、ずっと疑惑がもたれている。なぜなら、遺体に複数の打撲や傷跡の痕跡があったからで、18年にロサンゼルス郡の警察当局者が、新たな目撃証言から「不審死」とみて捜査を行っている。


VFX作業



 ようやくVFX作業が始まるものの、EEGスタッフは『ブレードランナー』と兼任だった。『ブレードランナー』の予算も厳しかったが、それでもユニバーサル・ハートランド社や、『未知との遭遇』で開発されたモーションコントロールカメラを、数台借りられる余裕があった。だが、『ブレインストーム』ではそれすら許されず、使える機械は65/35mmのオプチカル・プリンターと、通常(垂直駆動式)のアニメーションスタンド、リア・プロジェクション・システム、それに以前から改良を進めてきた「コンプシー」だけだった。


 コンプシーはアニメーションスタンドを横倒しにして、水平駆動式にした機械で、元々『スター・トレック』のヴィジャーの雲を作るために開発されたものだった。水平式にした理由は、カメラを移動させるレールが、通常は1.5~1.8m程度なのに対し、20mもの長さがあることだ。また、素材を置く画板が幅2.1m×高さ0.9mあり、これをX軸4.5m×Y軸1.8mの範囲で移勧できる。さらにカメラのパン、ティルト、回転など、全12軸の自由度も備えていた。





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