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『ブレインストーム』困難を乗り越え作り上げたダグラス・トランブル監督作(後編)

(c)Photofest / Getty Images

『ブレインストーム』困難を乗り越え作り上げたダグラス・トランブル監督作(後編)

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疑似CG映像



 この時代、すでにCG映像は実用段階にあり、TVCMや番組タイトル、そして『トロン』(82)などの映画に用いられていた。だが、トランブルはCGとは距離を置いており、社内開発なども行っていない。しかし作品の性質上、どうしてもCG風の映像が必要となる。


 例えば、劇中に登場するフライトシミュレーターの画面は、コンプシーを用いた(『2001年宇宙の旅』のスターゲートシーンと同様の)スリットスキャン(*7)で滑走路を表現し、そこに市販のF-16のプラモデルを合成している。コックピットのセットは、建設機械のバックホーのアームの先に組まれ、実際に揺らすことが可能だった。


 またオープニング・タイトルは、一見3DCGで作られたロゴが空中に浮かんでいるように見えるが、実際はプラスチックで造形された文字がガラス板に両面テープで貼り付けられたものだった。そして、アニメーションスタンドでトラックアップしながら、魚眼レンズで撮影するとCG風の表現になる。またその背景には、『スター・ウォーズ』(77)や『ニューヨーク1997』(81)、『ブレードランナー』などでモニターグラフィックスを手掛けたジョン・ウォッシュ(*8)が、幾何学的なアニメーションをアドリブで大量に作り、オプチカル・プリンターで散りばめている。


 ウォッシュはこの他にも、劇中に登場する様々なモニターグラフィックスを作っている。そのほとんどはビデオエフェクトで処理されたが、中にはS-100コンピューターを用いた16色の簡単なCGも登場している。


*7 スリットスキャンは、絵や写真などの平面素材を透明なプリントに起し、背後から照明する。そしてこの素材とカメラの間にスリットを設ける。そしてストリークと同様に、フィルムを固定した状態でシャッターを解放し、カメラを素材に近付けて(もしくは遠ざけて)行く。この際に、カメラの移動に合わせ、素材を上下(もしくは左右)に引いていく。するとフィルム上には、パースの付いた素材が露光される。そして、素材の位置を少しずつズラしながら撮影を繰り返すと、低空飛行で流れる大地のような映像が表現できる。スリットは直線に限らず曲線でも可能で、円を用いると『ドラえもん』(フィルム撮影時代)でお馴染みの、タイムマシンの背景になる。


*8 ジョン・ウォッシュは本作の後に独立して、映画のモニターグラフィックスを専門とするビデオイメージ社を設立し、この時に多くのEEGスタッフが参加している。同社のビデオシステムはフィルムと同じ24fpsで再生されるため、モニターを撮影してもフリッカーやシマ模様が発生しないようになっている。その後ビデオイメージ社は、高度な3DCGを用いたVIFX社となるが、『タイタニック』(97)への参加をきっかけに20世紀フォックスに買収される。そして、ブルースカイ・スタジオと合併させられてブルースカイ/VIFX社となるも、極端な社風の違いからうまく機能しなかった。99年には、VIFX部門だけがリズム&ヒューズ・スタジオに売却されるが、ウォッシュは独立してフリーのVFXスーパーバイザーとなった。





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