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『ブレインストーム』困難を乗り越え作り上げたダグラス・トランブル監督作(後編)

(c)Photofest / Getty Images

『ブレインストーム』困難を乗り越え作り上げたダグラス・トランブル監督作(後編)

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夜空の表現



 筆者が劇場で『ブレインストーム』を見た時、非常に感心したのが「夜のシーンが、ちゃんと夜に見える」ことだった。これは『未知との遭遇』でも同様だったのだが、夜空が暗くなっていて、控えめながら星も見える。当たり前のようだが、人が目で見るような夜空は、通常はフィルムに写らないのだ。広く用いられる「アメリカの夜」と呼ばれる疑似夜景効果では、独特の不自然さが残ってしまう。そこでリチャード・ユーリシッチの兄であるマシューが、精巧なマットペインティングを行って実写と合成し、極めて自然な夜のシーンの表現を成功させた。


公開後



 最終的に『ブレインストーム』は83年に公開されたが、総予算1,500万ドルに対し、興行成績は1,000万ドルという残念な数字だった。加えてナタリー・ウッドの死や、長引いた裁判などが心の傷となり、トランブルのハリウッド嫌いは決定的なものになってしまった。


 トランブルは、83年にILMから独立したリチャード・エドランドにEEGの設備を売却し、自らは84年にショースキャン・フィルム・コーポレーション(*9)を設立した。さらにショースキャンと、同時に開発していたモーションシミュレーターの「シネライド」を組み合わせ、トロントのCNタワーの地下に「ツアー・オブ・ザ・ユニバース」というアトラクションを85年に設置した。


 彼は、これをきっかけとしてアトラクション業界に身を置くようになり、バークシャー・モーション・ピクチャー・コーポレーション、ライドフィルム・シアター・コーポレーション、アイマックス・コーポレーション、マジックリープなどの社長や重役、諮問委員などを歴任していった。その後はトランブル・スタジオを設立し、『ツリー・オブ・ライフ』(11)や『ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男』(18)といった劇映画にVFXを提供した。


 また、2010年より再びハイフレームレート技術(*10)に取り組み始める。研究初期は「ショースキャン・デジタル」という名称だったが、その後「MAGI」(発音はマジャイ)が正式名称になる。基本的に4K、120fpsのデジタル3D映像で、この技術を用いた最初の作品は、トランブルの監督による短編『UFOTOG』(14)だった。これは彼の晩年のライフワークだった、本物のUFOの追跡をテーマにした作品で、長編化する計画も持っていたようだが、ついに実現することはなかった。


*9 トランブルは89年にショースキャンから撤退してしまう。

*10 アン・リー監督は、『ビリー・リンの永遠の一日』(16)や『ジェミニマン』(19)を120fpsで3D撮影するにあたって、トランブルの協力を得ている。



※前編はこちらから



【参考文献】

Cinefex No.14, October 1983

Cinefex No.9, July 1982

Bob Fischer and Marji Rhea, “Interview: Doug Trumbull and Richard Yuricich,. ASC,” American Cinematographer (Aug. 1994)

"DOUGLAS TRUMBULL, VES: Advancing New Technologies for the Future of Film". VFX Voice Magazine. June 25, 2018



文:大口孝之(おおぐち たかゆき)

1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経てフリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。デジタルハリウッド大学客員教授の他、早稲田大理工学部、女子美術大学専攻科、東京藝大大学院アニメーション専攻、日本電子専門学校などで非常勤講師。



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