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『引き裂かれたカーテン』ヒッチコックがスパイ・スリラーに挑んだ意欲作 ※注!ネタバレ含みます。

(c)Photofest / Getty Images

『引き裂かれたカーテン』ヒッチコックがスパイ・スリラーに挑んだ意欲作 ※注!ネタバレ含みます。

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実話から着想を得たスパイ映画



 『引き裂かれたカーテン』は、イギリス外交官ガイ・バージェスとドナルド・マクリーンがソビエト連邦に亡命した実話に着想を得ている。彼らはスパイ・グループ「ケンブリッジ・ファイヴ」の一員で(メンバー全員がケンブリッジ大学で学んだことから、そのように呼称された)、重要な機密情報を密かにソ連へ渡していた。だがヒッチコックが興味を示したのはそのような政治的策謀ではなく、ドナルド・マクリーンの妻が夫を追いかけてソ連に亡命した事実だった。


 「バージェスとマクリーンというふたりのイギリスの外交官が祖国を捨ててロシアに亡命した事件からヒントを得た。バージェスは独身だったが、マクリーンには妻がいた。マクリーン夫人はどんな気持ちだったのだろう。夫が祖国を裏切って鉄のカーテンの向こうに身売りしたことで、どんな思いにかられたのだろうーーーとわたしは考えた」(*)


 ジェームズ・ボンド映画第1作『007/ドクター・ノオ』(62)や、ジョン・ル・カレ原作の『寒い国から帰ったスパイ』(65)など、60年代はスパイ映画隆盛の時代。スリラー映画の名手ヒッチコックが、「007やル・カレがナンボのもんじゃい!ワシがホンマにオモロいスパイ映画を作ったるわ!」と鼻息荒くこの企画に着手したことは、想像に難くない。



『引き裂かれたカーテン』(c)Photofest / Getty Images


 意外なことに、ヒッチコックが本作の脚本を依頼した人物は、「ロリータ」の著者として知られるウラジーミル・ナボコフ。スタンリー・キューブリック監督がこの作品を映画化するにあたって、ナボコフは自らシナリオを手がけ、脚本家としても非凡な才能を見せつけていた。しかし政治スリラーはあまりにも自分と畑違いだったため、このオファーを丁重に断る。


 最終的に脚本家として指名されたのは、ブッカー賞に3度ノミネートされたこともある小説家ブライアン・ムーア。彼はハリウッドに居を移してシナリオを書き上げるも、ヒッチコックはその出来に満足できず、新しくキース・ウォーターハウスとウィリス・ホールを雇って、徹底的に書き直しさせる。彼らは撮影中もセリフを修正する作業に追われることになった。


 涙ぐましい努力を経て、『引き裂かれたカーテン』はスパイ・スリラーとしての骨格を形作っていったのである。




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