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『引き裂かれたカーテン』ヒッチコックがスパイ・スリラーに挑んだ意欲作 ※注!ネタバレ含みます。

(c)Photofest / Getty Images

『引き裂かれたカーテン』ヒッチコックがスパイ・スリラーに挑んだ意欲作 ※注!ネタバレ含みます。

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バーナード・ハーマンとの決別



 シナリオにダメ出しをしまくり、主演スターの芝居にも納得できなかったヒッチコックは、音楽面でも作曲家と衝突する。


 音楽を担当したのは、『めまい』(58)、『北北西に進路を取れ』、『サイコ』など、数々のヒッチコック作品で印象的なスコアを提供してきたバーナード・ハーマン。『悪魔の金』(41)ではアカデミー作曲賞に輝いた巨匠である。だが、最初からユニバーサルは彼の起用に消極的だった。理由は単純明快、「ヒット曲を書けないから」。『ティファニーで朝食を』(61)、『シャレード』(63)、『ピンクの豹』(63)など、軽妙洒脱なラウンジ・ミュージックで人気上昇中だったヘンリー・マンシーニを起用するプランも持ち上がったが、ヒッチコックは周囲の反対を押し切って、長年の盟友に仕事を依頼。ユニバーサルのお偉方を納得させるため、スコアの具体的な方向性まで指し示したのである。



『引き裂かれたカーテン』(c)Photofest / Getty Images


 しかしバーナード・ハーマンが書き下ろしたスコアは、スタジオの重役ばかりでなく、ヒッチコックも納得できないモノだった。あれほど注意深く指示を出していたのにも関わらず、出来上がってきた音楽は意図的にそれを無視したとしか思えなかったからだ。「要求したものと違う。これは完全に私の要求に対する違反だ」と激昂。慌ててバーナード・ハーマンは面会を求めるものの、ヒッチコックはそれを拒否。二人の蜜月時代が終焉を迎えた瞬間だった。


 代わって作曲を務めることになったのは、『長距離ランナーの孤独』(62)や『トム・ジョーンズの華麗な冒険』(63)で知られるジョン・アディソン。だが皮肉にも、アディソン版よりも幻に終わったハーマン版の方が、現在では一般に流通している。エルマー・バーンスタインやエサ=ペッカ・サロネンといった面々が、ハーマンのスコアを指揮したアルバムを発売したからだ。


 一般的には、“緊張感のない失敗作”の汚名を着せられてしまった『引き裂かれたカーテン』だが、それ以上にヒッチコックはこの映画で大きなものを失ってしまったのである。




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