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『引き裂かれたカーテン』ヒッチコックがスパイ・スリラーに挑んだ意欲作 ※注!ネタバレ含みます。

(c)Photofest / Getty Images

『引き裂かれたカーテン』ヒッチコックがスパイ・スリラーに挑んだ意欲作 ※注!ネタバレ含みます。

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切れ味鋭いサンドイッチ構造



 ヒッチコック映画には全て共通していることだが、特に筆者が『引き裂かれたカーテン』で感銘を受けるのは、脇役たちのキャラがとにかく立ちまくっていること。ふてぶてしさ満載のグロメク、冷酷無比なゲルハルト保安省長官、奇人の天才リント教授、愛すべきクチンスカ伯爵夫人、バスでの脱出に一役買うヤコビ、そして「白雪姫」の魔女みたいな格好に身を包むバレリーナ。一目彼らを見れば、あっという間にその姿が脳に刻み込まれてしまう。極めて視認性が高いから、映画の途中で「こいつ誰だっけ」と悩む必要がないのだ。


 東ベルリン行きの飛行機に乗っていたバレリーナが、到着するやいなやカメラのフラッシュを浴びようとするも、彼らはマイケル・アームストロング教授を待ち受けていた記者たちで、全く相手にされないという一幕があったが、これはラストでストックホルムに着いた彼女が、フラッシュを期待していたがまたも恥をかかされる、というギャグの伏線になっている。バレリーナの視認性が高いからこそ成立するテクニックだろう。


 このギャグは、序盤と終盤で同じ展開を繰り返すサンドイッチ構造になっているが、映画のオープニングとラストも実は切れ味鋭いサンドイッチ構造になっている。ニューヨークからコペンハーゲンに向かう客船で、マイケルとサラはベッドの毛布にくるまって束の間の情事を楽しんでいるが、最後のシーンでも二人は暖炉の前で毛布にくるまっている。こういう遊び心が、いかにもヒッチコックだ。


 さらに深読みすれば、コペンハーゲンに向かう客船は暖房が故障していた(=寒い)が、バレエの客席で「火だ!」と叫んで東ドイツを脱出し、最後はストックホルムで暖炉を囲む(=暖かい)展開は、緊張状態を強いられていた冷戦の氷が溶けて、西側諸国の勝利を暗喩的に描いたもの、とも考えられる。単なるサンドイッチ構造だけでなく、政治的なメッセージを暗喩として忍ばせていたとしたら、ヒッチコック、おそるべし。


*晶文社「定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー



文:竹島ルイ

ヒットガールに蹴られたい、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」主宰。



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