(c)Photofest / Getty Images
『トロン:レガシー』CG・デザイン・新技術にこだわりぬいたジョセフ・コシンスキー監督デビュー作 前編 ※注!ネタバレ含みます。
動き出した『トロン』続編企画
ディズニーでは20年以上に渡って、『トロン』続編の企画が動いていた。だが、いくつもの脚本が書かれたもののクランクインには至らず、いわゆる“デベロップメント・ヘル(開発地獄)”に陥っていた。その流れを変えたのは、ジョセフ・コシンスキーの登場だった。スタンフォード大学でデザインに重点を置いた機械工学を学び、コロンビア大学で建築の修士課程を修了。同大学でCGを専門とする助教授を務めながら、CMクリエイターとしても活躍する異色の経歴の持ち主である。
ディズニーは、彼の未来的なビジュアルのCMに惚れ込み、約2分半となる『トロン』続編のパイロット版制作を依頼した。この映像は、2008年のサンディエゴ・コミコン・インターナショナルで上映され、大反響を得る。こうしてディズニーは、計画に実質的なゴーサインを下した。
コシンスキー監督とプロデューサーのショーン・ベイリーは、「ケヴィンが自分で創り出したトロンシステムに閉じ込められ、行方不明になっている」というアイデアをストーリーの発端に据えた。さらに脚本家としてエディ・キッツィスとアダム・ホロウィッツが参加し、ケヴィンとサムという父と子の物語と、“若き父”を敵役にする案が加えられる。
『トロン:レガシー』(c)Photofest / Getty Images
あらすじ②
コロシアムでは、“人間”たちが互いにディスクを飛ばして闘う危険なゲームが強いられていた。敗者は絶叫しながら、細かなボクセル(キューブ)に分解され砕け散ってしまう。実は、この世界の“人間”は皆プログラムであり、背中には自身の情報を記録したディスクが挿入されている。そしてここで戦わされているのは、不完全な者や迷子のプログラムたちだった。
サムも、迷子プログラムとみなされゲームに投入されるが、抜群の身体能力を発揮してトーナメントを勝ち上がっていく。だが、恐ろしく強いリンズラーという戦士と戦っていた時、負傷して血を流したことから、プログラムではなく「ユーザー」(人間)だということがバレてしまう。サムは、クルーと呼ばれる謎の人物の所に連れて行かれる。マスクに隠されたその顔は、驚くべきことに失踪当時の父ケヴィン(3DCGのジェフ・ブリッジス)だった。しかしクルーは、「私はお前の父親じゃない」と否定する。
再びコロシアムに引き出されたサムは、他の迷子プログラムとチームを組まされ、5対5のゲームを強いられる。敵チームのリーダーはクルーだった。始まったゲームは「ライトサイクルバトル」で、サムは「これなら自信がある」(*4)とつぶやく。サムはチームをまとめてリードを保つが、クルーの巧みな戦法により、生き残ったのは彼だけになってしまった。
すると突然、コロシアム内に4輪の「ライトランナー」が乱入してきて、サムの命を救う。ライトランナーは、ミサイルでグリッドの外壁を破壊し、アウトランド(トロンシステムの内、未開発の地域)の荒野へ飛び出す。ライトランナーを操っていたのは、謎の女性クオラ(オリヴィア・ワイルド)だった。クオラは、サムを山中の家に連れて行く。そこには、本物の父ケヴィン(本物のブリッジス)がいた。
『トロン:レガシー』予告
動揺するサムに対し、ケヴィンは現実世界時間で20年間(グリッド時間では約1000年)の話を語る。ケヴィンが、理想世界「グリッド」の創造を進めていたころ、突然ISO(Isomorphic Algorithms)と呼ばれる、豊かな個性と自由意思を備えたミュータント・プログラムが出現する。ケヴィンはISOの持つ無限の可能性に驚嘆し、彼らに“人類の素晴らしい未来”を見た。そして彼らを現実世界に連れて行くことで、革命をもたらすと確信する。
だがクルーは、ISOを不完全なるもの(ウィルス)とみなした。不完全性を許せぬクルーは、ケヴィンに対してクーデターを起こす。トロンはケヴィンを逃がすために犠牲となり、ケヴィンはクルーの監視が及ばぬアウトランドの辺境に逃亡する。一方、クルーに捕らえられたトロンは、プログラムを書き替えられ、戦士リンズラーにされてしまう。
その後クルーは、パージと呼ばれるISOの大量虐殺を実施した。ISOの最後の1人となったクオラは、救ってくれたケヴィンのパートナーとなり、彼をクルーから守ると誓う。しかし、現実世界との唯一の通路であるポータルが閉じてしまい、ケヴィンはトロンシステムに閉じ込められたのだった。
*4 『トロン:レガシー』は、7歳当時のサムが1982年版『トロン』の映画やアーケードゲームに親しんでおり、自宅にはポスターやライトサイクルの玩具があるという、メタフィクション構造になっている。その点で、『マトリックス レザレクションズ』(21)に先行していたと言えるが、あまり映画の内容には影響してこない。