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『トロン:レガシー』CG・デザイン・新技術にこだわりぬいたジョセフ・コシンスキー監督デビュー作 前編 ※注!ネタバレ含みます。

(c)Photofest / Getty Images

『トロン:レガシー』CG・デザイン・新技術にこだわりぬいたジョセフ・コシンスキー監督デビュー作 前編 ※注!ネタバレ含みます。

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ディエイジングへの挑戦



 このストーリーを実現させるには、大きな問題があった。前作が作られたのは1982年であるから、企画がスタートした時点ですでに26年経過している。当時59歳になっていたジェフ・ブリッジスに、失踪時35歳という設定のケヴィンを演じさせるのは無理があった。なぜなら、特殊メイクで老けさせることはある程度可能だが、若返らせるのは困難だからだ。しかも、ケヴィンとクルーを同一画面で共演させる場面も必要となる。


 そのころ公開されたのが、デヴィッド・フィンチャー監督の『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(08)だった。この作品は、80歳の老体で生まれ、歳を取るごとに若返っていく男の人生を描いており、年齢に応じた代役の身体に、CGで作ったブラッド・ピットの頭部を合成している。ディズニーは、この完璧なCGを手掛けたデジタル・ドメイン社の技術に注目した。


 実は、デジタル・ドメインがここに辿り着くまでには、長い歴史があった。最初は、シアトルのミュージアム・オブ・ポップカルチャーの映像アトラクション「Artists' Journey: Funk Blast」(00)である。36×9mのドームスクリーンに70mmフィルムで映写されるシミュレーションライド映像で、R&B界の大御所ジェームス・ブラウン(当時66歳)が若返った姿で登場し、激しいダンスを披露するというものだった。デジタル・ドメインは、特殊メイクアーティストのトッド・マスターズに、30歳ごろのJBの彫像を依頼し、これをスキャンしてCGデータ化した。顔の動きは、JB本人の歌う姿をキャプチャーし、若いダンサーの身体と合成している。


「Artists' Journey: Funk Blast」


 次のステップは、フィンチャーが監督したポップコーンのCM「Orville Redenbacher」(07)である。これは、1995年に亡くなった創業者のレデンバッカーをCGで復活させるというもので、これの技術的成功が、フィンチャーに『ベンジャミン・バトン』の企画を実現に向かわせた。


 ちなみに『ベンジャミン・バトン』では、ブラッド・ピットの顔に蛍光染料を塗り、周囲150度を囲む28台のカメラで三角測量し、数千の点群データで記録するMova Countourのリアリティ・キャプチャー(を採用していた。だがこのシステムでは、俳優を椅子に座らせて、演技の撮影と別の日にフェイシャルキャプチャーだけが実行される。これを嫌ったコシンスキー監督は、『Disney's クリスマス・キャロル』(09)で開発された、ヘルメットカムを導入する。これは、俳優の頭に4台の小型赤外線カメラを直接装着することで、目の動きを含めた微妙な表情を、演技の撮影と同時にキャプチャーできるものだった。


Mova Countourリアリティ・キャプチャー


 だが架空の老人を描いた『ベンジャミン・バトン』と違い、観客によく知られたブリッジスの顔を、かなり大きなサイズで長時間登場させる必要があった。ヘタすれば「不気味の谷」と揶揄されかねない。そのため、頭髪は人間と同じ15~20万本が植えられ、解剖学に基づいた眼の構造や動き、皮膚のシワや弾力、あらゆる照明環境下を正確に再現した肌の反射率や半透過度、さらに口の中のディティールに至るまで、かつてない精度で表現された。そのため、1カットが1テラバイトもの容量になる場面もあったそうである。特に、映画冒頭の7歳のサムと会話している場面は、自然過ぎてCGとは気付かない人も多かったのではないだろうか。デジタル・ドメインは、ロサンゼルスとバンクーバーのスタジオを使い、422人ものスタッフを使った総力戦で1,500ショット(3D作品なのでフレーム数は倍)を仕上げた。結果として『トロン:レガシー』は、俳優を若返らせるディエイジング技術の先駆けとなった。


『トロン:レガシー』(c)Photofest / Getty Images


 同様な手法は他社でも行われるようになる。例えば『ターミネーター: 新起動/ジェニシス』(15)では、MPCがアーノルド・シュワルツェネッガーの84年に作られたライフマスクから顔を復元し、リアリティ・キャプチャー・データと組み合わせて第一作当時の姿を蘇らせた。また『ブレードランナー2049』(17)では、DNEGがショーン・ヤングの現在の骨格データから82年当時の顔をCGで再現した。『アイリッシュマン』(19)では、ILMがロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシらを、メインカメラと2台の赤外線カメラで三角測量を行い、マーカーレスでフェイシャルキャプチャーした。『ジェミニマン』(19)では、WETAデジタルがウィル・スミスの30歳も若いクローンをCGで再現し、120fpsの4K3D映像で表現した。


 一方デジタル・ドメインはこの技術を応用し、故人の復活というプロジェクトに乗り出していく。例えば、96年に殺害された米国のラッパーである2パック(トゥパック・シャクール)をバーチャル再現し、「コーチェラ・フェス」(12)のステージにおいて、スヌープ・ドッグ&ドクター・ドレーとペッパーズ・ゴースト技術(ホログラムではない)で共演させた。同様の試みは世界中で始まり、このビジネスを専門とするプロダクションもいくつか現れた。


 映画においても『ワイルド・スピード SKY MISSION』(15)では、出演場面を撮り残して亡くなったポール・ウォーカーをWETAデジタルがバーチャルで復活させている。代役を務めたのは2人の弟(コディとカレブ)であったが、彼らは肌質もポールに似ていたため、南カリフォルニア大学クリエイティブ・テクノロジー研究所のLight Stageで計測し、皮膚の反射率や微細構造データを利用して高精度の再現に成功した。


 また『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』(16)では、94年に亡くなったピーター・カッシングをモフ・ターキン役で出演させる必要があったため、スチュアート・フリーボーンが『トップ・シークレット』(84)用にかたどったライフマスクから、ILMがCGモデルを作成し、ガイ・ヘンリーの身体に合成している。この『ローグ・ワン』には、19歳のキャリー・フィッシャーもレイア姫役で登場するが、これはイングヴィルド・デイラの顔を、ILMがCG(あまり出来は良くない)に置き換えたものだった。若きフィッシャーは『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(19)にも登場するが、こちらは彼女の娘であるビリー・ラードが代役を努め、顔をCGレイア姫に挿げ替えていた。





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