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『トロン:レガシー』CG・デザイン・新技術にこだわりぬいたジョセフ・コシンスキー監督デビュー作 後編 ※注!ネタバレ含みます。
デザインの魅力
『トロン:レガシー』を強く印象付けるのは、デザインの美しさである。『トロン:オリジナル』の魅力は、背景担当のピーター・ロイド、衣装担当のジャン“メビウス”ジロー、メカ担当のシド・ミードという、3人のデザイナーが構築した世界観にあった。特にミードのビークルデザインは、CGの機能による制約があったものの、非常に印象的なものだった。
今回ビークルデザインを手掛けたのは、ドイツ出身のダニエル・サイモン(*1)である。プフォルツハイム大学を卒業後、01年にフォルクスワーゲン・デザインセンターに入社。05年に独立後、07年に架空のビークルのイラストを集めた「COSMIC MOTORS -遥か彼方の銀河系の宇宙船、車、パイロット-」を出版し、ディズニーの目に留まる。彼は、オリジナル版のミードのデザインを活かし、現代的に洗練させた。
『トロン:レガシー』(c)Photofest / Getty Images
また、『トロン:オリジナル』のコスチュームで特徴的だったのが、ボディに走るネオン管のような光の線である。当時の表現方法は、俳優たちに電子回路パターンを黒い線で描いた白いボディースーツを着せ、彼らをモノクロフィルムで撮影した。このフィルムは、1フレームずつ大きな印画紙に焼きつけ、手描きのロトスコープ作業で色別に切り分けて、リスフィルム(製版用のハイコントラストフィルム)にプリントし、アニメーションスタンドで透過光撮影された。60万枚に達したロトスコープ作業は、台湾のクックーズネスト・スタジオ(現ワン・フィルム・プロダクション)が中心になって行った。
今回はこの作業を効率化させるために、コスチューム自体がLEDで発光するようにデザインされた。そのため費用も高く付き、「ライトサイクルバトル」のレーサー用スーツ1着だけでも6万ドル掛かっている。映画全体の衣装代となると、1,300万ドルというとんでもないものとなり、日本なら超大作映画が作れるほどだ。それでも、こんなに金額を割いたにも係わらず、問題をいくつか抱えていた。例えば、LED用のリチウム電池は12分間しか持続しなかったため、テイクの直前に電源を入れ、カットの声と同時にオフにする必要があった。また、スーツ内の回路も非常に壊れやすかったため、撮影中は座ることができず、壁に寄りかかって立ったまま休むしかなかったそうだ。
*1 ダニエル・サイモンは『トロン:レガシー』をきっかけに、映画のメカデザインやコンセプトアーティストを務めるようになる。そして『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(11)、『プロメテウス』(12)、『オブリビオン』(13)、『ターボ』(13)、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(17)などの他、アニメシリーズの「トロン:ライジング」(12~13)にも参加している。