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『トロン:レガシー』CG・デザイン・新技術にこだわりぬいたジョセフ・コシンスキー監督デビュー作 後編 ※注!ネタバレ含みます。

(c)Photofest / Getty Images

『トロン:レガシー』CG・デザイン・新技術にこだわりぬいたジョセフ・コシンスキー監督デビュー作 後編 ※注!ネタバレ含みます。

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撮影と上映システム



 コシンスキー監督のこだわりは、劇場での上映環境にもあった。この映画は、Sony CineAlta F35で撮影されたデジタルシネマだが、IMAX 3D(*2)での上映を考慮し、シーンによってアスペクト比が2.39:1と、1.90:1または1.78:1に変化する。同様の試みは、クリストファー・ノーラン監督も『ダークナイト』(08)で試みていたが、彼は70mm 15パーフォレーションのIMAXフィルム撮影にこだわった。


 しかしコシンスキー監督は、『オブリビオン』や『オンリー・ザ・ブレイブ』(17)ではCineAlta F65『トップガン マーヴェリック』(22)ではCineAlta Venice IMAX(IMAX社の認定を受けたデジタルシネマカメラ)、『スパイダーヘッド』(22)ではCineAlta Veniceと、ソニー製カメラが非常にお気に入りらしい。


 また音響面でもこだわりがすごく、かつてのセンサラウンドを連想させる重低音で、ダフト・パンク(*3)の曲が響き渡る。


『トロン:レガシー』ダフトパンクPV


 ちなみにこの作品が公開された当時、「3D映画は、手前から奥までピントが合ったパンフォーカス(ディープフォーカス)でないと、うまく立体視できない」とされていた。これは19世紀の生理学者、物理学者ヘルマン・フォン・ヘルムホルツによる「人間はまず物体の形を認識し、その輪郭を比較して立体情報を得ている」という説に基づいている。しかし59年になり、ハンガリーの科学者ベラ・ユレシュによって明確な輪郭や形が無くても立体視は可能だということが証明され、人の脳における立体視の原理は混沌としてきた。このことはカメラマンたちにも混乱を与え、「パンフォーカスでないといけない派」と「被写界深度の浅いシャローフォーカスでも問題ない派」に分かれて議論されていた。


 だが、『トロン:レガシー』に用いられたCineAlta F35は、撮像素子の大きさがスーパー35規格のフィルムと同サイズであるため、イメージサークルが広くなる分、きれいなシャローフォーカスの映像が撮影可能という特徴を持っていた。このことは、被写界深度が深過ぎるビデオルックなデジタルシネマ用カメラに悩まされてきた、多くの撮影監督たちに歓迎された。そこで『トロン:レガシー』では、大胆なシャローフォーカスに挑戦したのだが、立体視にはまったく問題がなく、3Dやデジタルシネマ特有の臭みが抜けた、シネルックな画面の実現に成功した。



『トロン:レガシー』(c)Photofest / Getty Images


*2 余談だが、筆者は大阪で開催されたEXPO90のために、IMAX創業者のローマン・クロイター氏らと共に、「富士通パビリオン」のIMAX SOLIDO(ドーム型3D映像)作品制作に参加していた。そういったこともあって、昔から3D映像が大好物であり、海外の動きには常にアンテナを張っていたのだが、04年ごろに米国の映画人たちが、「デジタル3Dの流行を起こそうと画策している」という予感を抱いた。そこで、様々な雑誌の編集部に記事を書かせて欲しいと頼み込んだのだが、なかなか信じてもらえない。しかたなく個人でサイトを立ち上げて(現在は閉鎖)、この説を呼びかけた。するとこれに反応してきたのが韓国で、07年に釜山国際映画祭の関連シンポジウムでの講演を依頼されている。やがて国内でも、3D映画が数多く上映されるようになり、『アバター』(09)の公開も近付いてくると、様々なシンポジウムや学会、企業などで、毎週のように講演が依頼されるようになった。そういった企業の中に、ウォルト・ディズニー・ジャパンもあったのだが、それが縁で筆者に、『トロン:レガシー』の用語監修という仕事が依頼されている。


*3 彼ら自身も、「エンド・オブ・ライン・クラブ」のDJとして出演している。



シリーズのその後



 ディズニーは、『トロン』をフランチャイズ化すべく、いろいろと計画を進めていた。まず、フルCGアニメによるテレビシリーズ「トロン:ライジング」が、日本のポリゴン・ピクチュアズなども参加して制作された。また、『トロン:レガシー』をモチーフとしたテーマパーク・アトラクション「トロン・ライトサイクル・パワーラン」が、16年に上海ディズニーランドでオープンし、22年にもフロリダ ウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートで開業する。


 映画の第三作となる『TRON 3』も、25年ごろを目指してシナリオ開発が進められている。これは『マグダラのマリア』(18)のガース・デイヴィス監督によるプロジェクトだが、コシンスキーはその実現には否定的だ。コシンスキーは実際、第三作の『TRON: Ascension』に取り組んでいたが、ディズニーはマーベル作品や『スター・ウォーズ』シリーズに比重を置くようになってしまい、シナリオが凍結されてしまったからだ。


参考:

https://www.thewrap.com/tron-3-sequel-marvel-star-wars-disney-kosinski/



文:大口孝之(おおぐち たかゆき)

1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経てフリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。デジタルハリウッド大学客員教授の他、早稲田大理工学部、女子美術大学専攻科、東京藝大大学院アニメーション専攻、日本電子専門学校などで非常勤講師。



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