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『ドラッグストア・カウボーイ』ガス・ヴァン・サント、マット・ディロン、未来の才能が芽吹いたジャンキー映画

(c)Photofest / Getty Images

『ドラッグストア・カウボーイ』ガス・ヴァン・サント、マット・ディロン、未来の才能が芽吹いたジャンキー映画

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その後の映画への影響力



 映画のサイト、“Hollywood Suite”(2017年2月2日号)はこの作品を「時代を先取りした映画」と呼んでいる。その記事によれば、この映画は先鋭的な視覚言語を作り上げ、90年代や00年代のジャンキーを描いた映画にも影響を与えたと分析されている。90年代に最も大きな影響を受けたのはこの作品同様、ドラッグの世界を描いた大ヒット作『トレインスポッティング』(96、ダニー・ボイル)で、また、『レクイエム・フォー・ドリーム』(00、ダーレン・アロノフスキー)へも影響も見て取れる。


 『ドラッグストア・カウボーイ』では主人公ボブの意識の世界を視覚的に見せる場面があり、彼の頭の中に浮かぶ絵が具体的に映像として登場する。どこかファンタジー的な要素が入っているところが、ジャンキー映画としては新しかった。ドラッグのトリップを視覚化した先駆的なハリウッド作品としてはロジャー・コーマン監督、ジャック・ニコルソン脚本の『白昼の幻想』(67)があったし、この映画に出演したデニス・ホッパー(監督)とピーター・フォンダ(製作)が作った『イージーライダー』(69)のトリップ場面も、公開された時は新鮮なインパクトを残した。


『イージーライダー』予告


 クスリ中毒の男女の葛藤を描いた作品としては若き日のアル・パチーノが主演した『哀しみの街かど』(71)もあった。ただ、こちらはクスリの世界にのめり込む男女の悲劇的な恋愛にも重きが置かれていた。『ドラッグストア・カウボーイ』は、一見、時代設定が見えにくい作風だが、ヒロインのケリー・リンチがドラッグストアで万引きする本から時代が分かる。それは大ベストセラー「ある愛の詩」(エリック・シーガル著)のペーパーバック版。こういう本が出てくることで、70年代であることが分かる。同じ70年代が舞台でも、冷たいニューヨークの街を舞台にした『哀しみの街かど』と比べると、オレゴンの小さな町が舞台の『ドラッグストア・カウボーイ』は牧歌的で、ファンタジーの要素も入っている。


 そして、ガス・ヴァン・サントの映像と音楽の重ね方にも個性が見える。冒頭で流れるのは、1930年代に作られたスタンダード・ナンバー“For All We Know”で実力派の黒人女性シンガー、アビー・リンカーンの歌声がこちらの内側にじわじわ浸透していくような構成だ。救急車の枕の上に横たわるボブの顔のアップに曲が重ねられ、自分は「これまでけっして勝てないゲーム」に身を投じていた」という内容のナレーションが流れると、そこから一気に画面に引きこまれてしまう。この曲はボブがクスリをやめる決意をして、バスで故郷に戻る場面にも流れる。彼はバスの外を見ているだけだが、その移り行く風景に曲が重なることで、何か静かな祈りのような場面にも思える。(蛇足ながら、テーマ曲を歌うアビー・リンカーンは女優としても活動していて、スパイク・リー監督の『モ‘・ベター・ブルース』/90にも出演)。 


 映画と小説はエンディングが異なっていて、小説では死が強調されるが、映画では生の選択が取られている。脚本家のダニエル・ヨストによれば、映画の続編“Drugstore Cowboy(Backside of a Mirror)”を作る計画もあったという。映画から15年後を舞台にした脚本を書き上げ、ジャンキーではないボブを主人公にしていたが、製作には至っていない。エンディングの深い余韻が消えてしまうので、続編は作られなくて正解だったと(個人的には)思っている。



文:大森さわこ

映画ジャーナリスト。著書に「ロスト・シネマ」(河出書房新社)他、訳書に「ウディ」(D・エヴァニアー著、キネマ旬報社)他。雑誌は「ミュージック・マガジン」、「キネマ旬報」等に寄稿。ウエブ連載をもとにした取材本、「ミニシアター再訪」も刊行予定。



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