1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. カラー・オブ・ハート
  4. 『カラー・オブ・ハート』色彩テクニックが示唆するアメリカの分断(後編)
『カラー・オブ・ハート』色彩テクニックが示唆するアメリカの分断(後編)

(c)Photofest / Getty Images

『カラー・オブ・ハート』色彩テクニックが示唆するアメリカの分断(後編)

PAGES


色彩と視覚効果の演出



 クリス・ワッツが技術的な手順を解決させるのと並行して、マイケル・サザードによる色彩演出での工夫も行われた。まず問題となったのが、モノクロの画面の中にカラーの物体が存在していると、どうしても観客の注目はカラーに行ってしまうことだ。しかしバッドは、周囲がカラーになっても白黒のままである時間が長い。結果として、映画の主役が一番目立たなくなってしまう。


 そこで白黒のバッドに、観客がほとんど気付かない程度の色を薄く載せたり、逆に周囲の被写体の彩度(色の鮮やかさ)を落として、主役に視線が向かうように、細かく領域を分けて調整した。また逆にバッドがカラー化した以降は、三色法テクニカラーのように彩度をコッテリさせて、違いを強調している。


 また、単純に画面の一部を白黒にしただけでは、切り合わせ合成にしか見えないという問題が生じた。「同じ空間に色の違う人物や物体が存在している」というリアリティが感じられないのだ。そこで、カラーの物体からの照り返しが、白黒の物体へ微かに影響を与える描写がなされた。例えば、マーガレットが木からリンゴをもぎ取るシーンでは、彼女の白黒の手の内側が一瞬赤く染まる。映画の鑑賞中に、こういった処理にほとんど気付くことはないが、不自然な印象の軽減に成功している。



『カラー・オブ・ハート』(c)Photofest / Getty Images


 また、ピンク色の花びらが舞い散る桜並木の描写では、白黒のままの箇所もあり、奥行きによって濃淡の細かな調整も必要となる。ワッツは、この作業をロトスコープで行うことは非効率的と考えた。そこで、赤く着色した人工の花びらを大型ファンで舞い散らせる。そして、赤色をキーイングすることで、花びらだけのトラベリングマットを抽出した。この花びらは、一度モノクロに脱色された後、ピンク色に着色される。これによって、相当量の時間と労力を抑えることができた。


 また白黒のメイクを施したベティが、ピカソの絵画を観て涙を流すシーンでも、キーイングが用いられている。実際にこの場面で、ベティの顔に塗られていたのは、緑色のファンデーションだった。そしてグリーンクロマキーの要領で顔のマットを抽出し、ファンデーションをビルが拭き取ることで、本来の肌色が現れてくる。PVEのスタッフは、緑色の彩度を落としてグレーにし、マットの輪郭をソフトにすることで、自然に肌色が現われるように調整した。


 さらに遠景や町全体を俯瞰するショットは、『スターシップ・トゥルーパーズ』(97)や『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』(02)にも参加しているマーク・サリバン(当時コンパウンドアイ社に所属)が、デジタル・マットペインティングで表現した。特に、プレザントヴィルの上空に虹がかかるショットは、ストーリーを象徴する場面として非常に印象的だ。




PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. カラー・オブ・ハート
  4. 『カラー・オブ・ハート』色彩テクニックが示唆するアメリカの分断(後編)