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『ファミリー・プロット』ヒッチコックからの最後のウインク

(c)Photofest / Getty Images

『ファミリー・プロット』ヒッチコックからの最後のウインク

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“エルンスト・ルビッチ監督がスリラーを撮ったような感覚” 



 『バルカン超特急』(38)、『裏窓』(54)、『めまい』(58)、『』(63)…。およそ60年にわたるキャリアの中で、アルフレッド・ヒッチコックは数々の傑作スリラーを世に送り出してきた。その輝かしいフィルモグラフィーの53本目にあたる監督作であり、“サスペンスの神様”と称された巨匠の遺作となった映画が、『ファミリー・プロット』(76)である。


 本作は、『北北西に進路を取れ』(59)のようなスケールの大きいスパイ・スリラーではない。『レベッカ』(40)のような文芸ロマンスでもないし、『サイコ』(60)のような切れ味鋭いショッカーでもない。インチキ霊媒師のブランチ(バーバラ・ハリス)とその恋人ジョージ(ブルース・ダーン)が、賞金目当てに行方不明の遺産相続人を探し回るという、何とも地味な小品である。アルフレッド・ヒッチコックはこの映画についてこう語っている。


 「メロドラマを、ちょっとだけ軽快に。そして、洗練された作品で知られるエルンスト・ルビッチ監督がスリラーを撮ったような感覚が欲しかったんだ」(※1)


『ファミリー・プロット』予告


 確かに全体に漂うスクリューボール・コメディ感は、ヒッチコックが手がけた唯一のコメディ映画『スミス夫妻』(41)を彷彿とさせる。どこか肩の力が抜けたような、微笑ましいユーモア・センスがあるのだ。観客を怖らがせることに人生を注いできた男が、最後の最後でこんな楽しい映画を届けてくれたことは、筆者個人としてはとっても嬉しかったりする。


 だがノホホンとした作風とは裏腹に、ヒッチコック自身の身体はボロボロだった。原作の映画化権を獲得し、脚本家アーネスト・レーマンと共にプロットを固めていく作業中、彼は心臓発作で倒れてしまう。映画監督フランソワ・トリュフォーは、「定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー」の中でこんな一節を記している。


 「ヒッチコックは心臓発作で倒れ、手術の結果、ペースメーカーを移植した。わたしがあえてこんなことを書いたのは、決して不謹慎にヒッチコックの秘密を暴露するというつもりではない。この四年来、ヒッチコックをたずねたひとなら、ジャーナリストであれ、友人であれ、だれしもがこの<事実>を見せられているからである。ヒッチコックみずから、おもしろがって、彼のシャツをひらき、この医学の新製品を、胸部のすぐ下に差し込まれた長方形のペースメーカーを、みんなに見せびらかしていた」(※2)


 自分の健康状態すらジョークにしてしまうとは、さすがヒッチコック。しかし体力に不安を抱え、シナリオ完成までに1年を要することになる。撮影中も、スタジオの重役から電話がかかってくるたびに受話器を胸に当てて、心拍数に問題ないかをチェックされたという逸話もアリ。おそらく自分の死期が近いことを感じつつ、彼はフィルモグラフィーの中でも屈指の“ご陽気映画”を撮りあげたのだ。





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