(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を生み出した映像革命とは?その最新技術に迫る(前編)
2022.12.20
水中パフォーマンス・キャプチャーに挑戦
海が主な舞台となる『WoW』では、キャメロンとプロデューサーのジョン・ランドーの製作会社ライトストーム・エンターテインメントが、6つのタンクを建設した。それぞれ場所やサイズ、用途も異なり、Wētā FXの近くであるウェリントンのストーン・ストリート・スタジオに1基。同じくニュージーランド最大の都市オークランドに3基。さらに、カリフォルニア州のマンハッタン・ビーチ・スタジオに2基造られ、その1基は長さ約36.5m、幅約18.3m、深さ約9mあり、直径1.8mある2枚の船舶用プロペラで、10ノット程度の水流を作り出すことも可能だった。最大の物は、長さ約50m、幅約20m、深さ約10mほどである。これらのタンクは、どれもボリューム(光学式キャプチャー用スタジオ)として機能するように設計されていた。
ここで問題となるのが、「そもそも水中で光学式キャプチャーは可能か」ということだ。実はこういった技術(*3)は実用化しており、主に競泳選手の動作解析や、水中ロボットの挙動、水中で使う産業機器の動作検証などで使用されている。しかし、水中で再帰性反射マーカーを読み取るのは難しく、他に赤外線を強く反射するものと区別ができなくなる。空気中であれば問題ないが、水中の場合、呼気の泡に赤外線カメラが反応してしまうのだ。
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』(C) 2022 20th Century Studios. All Rights Reserved.
そのため、水中に入る人間はアクアラングの使用が禁止され、素潜りでの演技が強要された。そして全員が、水難救助隊や軍事特殊部隊の訓練も行う、世界的なフリーダイビング・トレーナーであるカーク・クラックの所で、15か月間に渡って指導を受けた。結果として、人間のキャラクターであるスパイダー役のジャック・チャンピオンは5分33秒、14歳のキリを演ずるシガーニー・ウィーバーは6分30秒、メトカイナ族のツァヒク(シャーマン)であるロナル役のケイト・ウィンスレットに至っては7分15秒もの息止めを可能にした。しかし素潜りは、俳優だけに強要されたわけではない。監督は当然として、カメラや照明のスタッフ、さらにメトカイナ族の乗り物になっている海生哺乳類のイル役を水中スクーター(*4)で演じるドライバーなど、全員が息を止めて作業していたのだ。
もう一つの問題は、水中から見上げた水面に、マーカーが鏡のように全反射してしまうことだ。これも泡と同じように、キャプチャーの測定結果を誤らせる原因になる。そこで、水面に何千というピンポン玉のような小さなボール(*5)を浮かべ、タンクに蓋をしたのだ。これにより、下から見上げてもマーカーの反射は生じない。ボールを用いた理由は、俳優やスタッフが容易に水面に出ることを可能にするためだった。
なお再帰性反射マーカーを用いる他に、スーツに付けた幾何学的なパターンをビデオカメラで撮影し、画像認識させるという方法も併用されており、Wētā FXはこれをフォー(Faux: 偽)キャップと呼んでいる。入力は通常のビデオカメラで構わないため、SONYが複数のαミラーレスカメラや、4KカムコーダーPXW-Z450、2KカムコーダーPXW-X320、4K動画が撮影可能な小型スチルカメラRX0などを提供した。
*3 本作で用いられたかは不明だが、スウェーデンのQualisys社は、水面下用光学式キャプチャーカメラUnderwaterを製造しており、日本ではアーカイブティップスという会社が扱っている。
*4 この水中スクーターは、『アビス』(89)の撮影用にジェームズ・キャメロンと弟のマイケル・キャメロンが設計したもので、特許(US4996938)も取得している。
*5 おそらく、この水面にボールを浮かべるというアイデアは、『アビス』の撮影時に廃棄された原子炉建屋に水を溜めて、巨大タンクを造った際に生まれたものだろう。その時は、水面にポリスチレン製の黒いビーズを大量に浮かべ、深海の暗さを表現すると同時に、水面の全反射を防ぐことに成功した。
『アビス』メイキングシーン