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『美女と野獣』私の野獣、一輪の薔薇の花が変えた運命

© 1946 SNC (GROUPE M6)/Comité Cocteau

『美女と野獣』私の野獣、一輪の薔薇の花が変えた運命

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呪文と欲望



 ベルの住む家の前で弓矢の練習に興じている、アヴナンとベルの兄リュドウィグ(ミシェル・オークレール)。放たれた矢は、開放された窓を抜け、部屋にいた犬に刺さりそうになる。冒頭シーンにおけるこの鋭い矢は、ジャン・コクトーの作家の刻印でもある。ジャン・コクトーの映画において、死の恐怖は生のすぐ隣にあるものなのだ。


 きらびやかな衣装を纏った意地悪な二人の姉が階段を降りてくる。「お小姓!お小姓!」と魔女が呪文を唱えるような発声のリズムで人力車を呼ぶ姉たち(呪文を唱えるようなこの響きは、馬に乗って古城に向かう際にかける呪文「連れてって、マニフィック、行け、行け(Va où je vais, le Magnifique, va, va, va... !)」で本格的に登場する)。二人の姉はおとぎ話に出てくる悪い魔女のようだ。どの男性からも愛されているベルは、姉たちからの僻みを一身に受けている。リュドウィグは彼女たちの甲高い声を真似してからかっている。駕籠(かご)を運ぶ小姓たちは二日酔いで寝ている。そして意地の悪い彼女たちに罰を与えるかのように駕籠は汚れている。



『美女と野獣』© 1946 SNC (GROUPE M6)/Comité Cocteau


 床に刺さった矢の周りを掃除するベル。恐怖は背後から忍び寄る。ベルの背後から静かに姿を現すアヴナンは床に刺さった矢を抜き、おもむろに求婚の言葉を投げかける。アヴナンは空虚なくらい軽薄な青年だ。ベルにキスをしようとしたアヴナンをリュドウィグが咎める。リュドウィグはおもむろにアヴナンに殴られてしまう。


 驚くべきことにジャン・コクトーは冒頭10分ほどの展開で、ヒロインの生活を取り巻く関係性、キャラクターの属性のすべてを描き切っている。簡潔にして完璧な映像文体。ベルにとってこの家は侮辱の場だ。健気な彼女を繋ぎとめているのは、父親への強い思いだけだが、同時に彼女はこの家から出ることはできない。本作は女性の自立が尊重されていない「昔々の話」なのだ。その父親も財産を失い、一家は崩壊に向かいつつある。そしてベルには人生の選択を希求する秘められた意志がある。『美女と野獣』は、父親や結婚相手に献身することを美徳とする家父長制に、ほのかな反逆の狼煙をあげている。ジャン・コクトーによる魔術的な装飾やトリック撮影は、ヒロインの欲望を尊重することに捧げられている。




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