私をその目で見るな
野獣の姿を見て気絶したベルはベッドに運ばれる。眠っているベルに近づく野獣の顔がクローズアップで捉えられる。目を覚ますベルのクローズアップが次のショットで捉えられたとき、『美女と野獣』は「瞳の映画」となる。二人の瞳の中に光る美しいアイライトが心臓抜きのごとく強いショックを生んでいる。相手を射抜く矢のようなアイライトの切り返し。野獣はベルに「私をその目で見るな」と告げる。ベルの言うとおり、その言葉は野獣自身を傷つける。ベルの瞳の光が野獣を撃つ。野獣は彼女の瞳の光を避ける。このとき野獣は自らの死を覚悟するほどの激しい恋に落ちている。
野獣は食事のシーンでベルの背後に回り、彼女の視界から逃れる。ベルが野獣と目を合わせないこのシーンは、ベルがアヴナンに求婚されたシーンを反復、反転させるイメージだ。野獣の態度は、ベルを所有することだけを目的としているようなアヴナンとは対照的だ。アヴナンの強引な求婚の言葉と違い、野獣の求婚は彼女の返事を尊重している。囚われの身であるにも関わらず、ここではむしろベルの方に主導権があるかのようにも受け取れる。
『美女と野獣』© 1946 SNC (GROUPE M6)/Comité Cocteau
ジャン・コクトーは演劇的、あるいはオペラ的なダイナミックさで野獣を強調することを意図的に避けている。本作で野獣が初めて画面に姿を見せるシーンは木の影なのだ。あたかも初めからそこに生活している者として野獣は描かれている。本作の撮影中、茂みの中から現れる野獣を見た現地の子供たちが怖がって逃げたというエピソードが残されているが、ベルを身代わりにした経緯があるとはいえ、野獣のキャラクターはとても紳士的だ。むしろ初めから弱い者として描かれている。ジャン・マレーによる、それぞれのキャラクターに合わせた所作、身のこなしが素晴らしい。