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『AIR/エア』“映画界のエア ジョーダン”を目指す、ベン・アフレックの挑戦

©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

『AIR/エア』“映画界のエア ジョーダン”を目指す、ベン・アフレックの挑戦

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※本記事は物語の核心に触れているため、映画をご覧になってから読むことをお勧めします。


『AIR/エア』あらすじ

1984年、人気がなく業績不振のナイキのバスケットボール・シューズ。ソニーは、CEOのフィルからバスケットボール部門の立て直しを命じられる。競合ブランドたちが圧倒的シェアを占める中で苦戦するソニーが目をつけたのは、後に世界的スターとなる選手マイケル・ジョーダン――当時はまだド新人でNBAの試合に出たこともなく、しかも他社ブランドのファンだった。そんな不利な状況にもかかわらず、ソニーは驚くべき情熱と独創性である秘策を持ちかける。負け犬だった男たちが、すべてを賭けて仕掛ける一発逆転の取引とは…!?


Index


ベン・アフレックのお家芸、サスペンス映画



 男女の私立探偵コンビが幼女誘拐事件の謎に挑む『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(07)、銀行強盗を重ねる男が運命的な恋に堕ちる『ザ・タウン』(10)、イランアメリカ大使館人質事件を題材にした『アルゴ』(12)、禁酒法時代を舞台に欲望と裏切りが交錯する『夜に生きる 』(16)。映画監督としてベン・アフレックは、これまでサスペンス映画を中心にフィルモグラフィーを築き上げてきた。


 打って変わって最新作の『AIR/エア』(23)は、ナイキ社員ソニー・ヴァッカロ(マット・デイモン)にスポットを当てた伝記ドラマ。新人バスケットボール・プレイヤーのマイケル・ジョーダンに目をつけたソニーが、アディダス、コンバースとのコンペに打ち勝ち、独占契約を果たすまで(そして、伝説のバスケット・シューズであるエア ジョーダンが誕生するまで)を描いている。


 命からがらの脱出劇も、血を血で争う抗争もない。1984年を舞台に、当時のポップ・ミュージックがゴキゲンに鳴り響く(Dire Straitsの「Money For Nothing」とか、George Clintonの「Atomic Dog」とか、RUN DMCの「My Adidas 」とか!)、痛快なお仕事ドラマなのである



『AIR/エア』©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.


 80年代のアメリカは、レーガノミクスと呼ばれる大規模な財政出動によって、経済が回復の兆しを見せていた。『摩天楼はバラ色に』(87)や『ワーキング・ガール』(88)など、主人公が立身出世を果たすサクセス・ストーリーが数多く公開されたのもこの頃。オリバー・ストーンの『ウォール街』(87)は、行き過ぎた資本主義のカウンターとして作られた作品と言えるだろう。


 そしてここがミソなのだが、『AIR/エア』は80年代的なサクセス・ストーリーの外殻を纏っているものの、物語の力点は主人公のソニーの立身出世に置かれてはいない。「マイケル・ジョーダンとの契約に成功するか、否か」に一点集中している。そして我々観客は、すでに結末を知っているにも関わらず、ナイキのコンペが上手くいくかどうかをハラハラドキドキしながら見守る。構造としては、「アメリカ大使館員が無事にイランから脱出できるか?」という周知の事実に向かって、サスペンスが積み上げられていく『アルゴ』と同一なのだ。


 そう、犯罪を扱っていないにせよ、本作もまたベン・アフレックのお家芸であるサスペンス映画なのである。





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