ウェスの箱庭的(あるいはドールハウス的)世界
ユーモアに満ちた穏やかなコメディー、ちょっとずれたキャラクターたち、成長・独立・絆・冒険といったストーリー要素(これについては次回記事で詳しく)など、ウェス映画を特徴づけるポイントは多々あるが、とりわけウェスらしさを感じさせるのは、諸要素の配置と構図、カメラワークによって組み立てられる箱庭のような映像世界だ。
建物や乗り物をドールハウス風に断面で示す。それぞれの部屋で過ごす登場人物たちを順々に紹介していく。遠近感を強調したシンメトリックな構図。移動するキャラクターを横方向からドリー撮影(台車などにカメラを載せカメラ自体を移動させながら撮影する手法)で収めるショット。劇中劇。これらを巧みに組み合わせることで、ウェスはスクリーンの中に“箱庭の映像版”とでも言うべき小さな閉ざされた世界を築き上げる。観客はあたかも、アリの巣観察ケースで働きアリたちがせわしなく動くさまを眺めるように、キャラクターたちの営みを観察している気分になるのだ。
『犬ヶ島』©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
こうしたスタイルはウェスが実写作品で確立していったものだが、初のアニメ映画『ファンタスティック Mr.FOX』にも応用し、さらに『犬ヶ島』で一層磨きをかけている。今回とりわけ効果的に活用されているのは、主人公の少年アタリが犬ヶ島で仲間になった犬たちと愛犬スポッツを探しにいくシークエンスなどで使われたドリーショット。(ただし、コマ撮りで作業を進めるストップモーション・アニメの場合、パペットとカメラをそれぞれ移動させるほかに、パペットとカメラの位置はそのままで背景だけを移動させても同じ効果を得られるので、実際にはこうした“疑似ドリーショット”を併用しているかもしれない)。オートメーション化されたゴミ処理施設で吊り下げ式のカートに乗ってしまった犬たちが、次々に災難が降りかかる施設内をなすすべなく運ばれるシーンは、彼らの受難を淡々と傍観するかのようなドリーショットがおかしみを増している。
『犬ヶ島』©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
そもそも、ミニチュアのセットを作り、その中で人間や動物のパペットを少しずつ動かして命を吹き込むストップモーション・アニメという表現手法自体が、箱庭の制作やドールハウスでの遊びに似ている。実写で箱庭的世界を創造してきたウェスが、ストップモーション・アニメで作家性を発揮できるのもある意味当然かもしれない。