(広義の)ジャポニスムとウェス映画の親和性
『犬ヶ島』の舞台は日本であって、日本ではない。日本人には絶対に描けない、西洋人から見た“日本的なるもの”を凝縮し、(ハリウッド映画における頓珍漢な日本や日本人の描写へのパロディーも含めて)再構築した世界なのだ。
『犬ヶ島』©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
「ジャポニスム」は19世紀後半のヨーロッパ美術界で流行した日本趣味を指すが、この文脈ではより広義にとらえたい。具体的には、浮世絵、文楽、俳句、盆栽、石庭、さらに最近では「弁当」も該当するが、こうした日本の芸術や文化に共通の、要素をそぎ落としてシンプルに世界を表現する傾向、限られた空間で小宇宙を創造する姿勢が、欧米の人々から嗜好されてきた。
『犬ヶ島』©2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
このような日本趣味=広義のジャポニスムと、箱庭的世界を描き続けてきたウェス映画。両者が出会ったのは必然であり、その邂逅から誕生したのが『犬ヶ島』というわけだ。
なお、ウェスが多用する劇中劇としては今回、歌舞伎のシーンが描かれている。これもまた西洋人好みの日本文化だが、パペットの役者が舞う歌舞伎をパペットの観客が眺め、それを私たち観客が眺めるという図は、実写の劇中劇以上に入れ子構造が強調されて、軽いトリップ感すら覚えるほどだ。