ウォレスとイザベルの逢引という衝撃展開
最後に挙げたいのは、ソフィー・マルソー演じるイザベラ王女のくだりだ。本作の後半では、フランスから英国の王子のもとに嫁いできたイザベラ王女が、交渉役としてスコットランドへと赴き、やがては敵味方の垣根を越えてウォレスと信頼関係を結ぶどころか、愛を育んでしまう。この創作部分を鵜呑みにしてしまうと、世界史のテストで出題された際に失点をくらいかねないので注意が必要だ。
この部分、年齢からしても無理がある。ウィリアム・ウォレスが英国側に捕らえられて、民衆の前で拷問を受けて死んだ時、このイザベラはまだ10歳にしか満たず、エドワード王子(のちのエドワード2世)のもとへ嫁ぐのもこの3年ほど後になってから。それゆえ二人が出会うことはおろか、このような特別な関係を結ぶこともありえないのである。
『ブレイブハート』(c)Photofest / Getty Images
ここからも「史実ベース」ではなく、作り手の中で練られた「あるべきストーリー」を最優先に映画が構築されていることが窺える。確かにセオリーとして、単に敵味方に分かれて争うよりは、その垣根を越えて同じ目線で理解し合える存在があった方が、より立体的になるのは間違いない。
また、二人の関係性、とりわけイザベラ王女がラストで嫁ぎ先の義理の父にあたるエドワード1世に対して耳打ちする「あなたの血をひかぬ子が私のお腹にいます」(これもフィクション)というセリフには、本作全体を通じて登場人物たちがしがみつく「世襲」「父と子」「血の繋がり」といったテーマに痛烈な皮肉を突きつける効果もある。それらとは一線を画し、血の繋がりを越えて国を一つにまとめようとしたからこそ、本作のウィリアム・ウォレスの姿はこれほどまでに力強く、感動的なのだ。