原作と映画の違い
物語の骨格が驚くほどポール・シュレイダー的であった原作小説ではあるが、完成した映画と見比べてみると、ポール・シュレイダーが脚色に当たって何を拾い上げ、何を捨てたのかが窺えて面白い。
主人公の1人称視点で進む原作小説は、時折クスッとしてしまうユーモアが挟み込まれているが、映画はそこを完全に切り捨てており、膨大なダイアローグの中から厭世的な部分をメインにピックアップすることで、原作よりも主人公の内面の暗さが目立つようになっている。
また原作ではかなりの頁をかけて、主人公の家族周りのエピソードや前妻・モナへの執着のエピソードが描かれているが、映画ではそこもバッサリと切り捨てられ、主人公の情報は最小限に抑えられている。さらに原作では、主人公と職場の同僚たちがたわいもない雑談を繰り広げていたり、仕事終わりにバーに飲みに出かけたり、上司に長期休暇の相談をするなど、職場の人間関係はそれほど悪くないのだが、これらも映画では削られており、主人公の孤独さがより強調されている。
『救命士』(c)Photofest / Getty Images
これに加えて、原作では主人公が不眠症であることが強く押し出され、さらに、ストレスから見る幻覚のバリエーションも多種多様なのだが、映画では主人公が助けられなかった少女ローズのみに基本は絞られており、少女がある種、妄執のきっかけになっているように変更されている。
シュレイダーは原作の主人公:フランクというキャラクターを、厭世的で素性がわからず、不眠症で、誰にも悩みを共有できずに孤独であり、そして少女が妄執の鍵を握っているという映画独自のキャラクター、つまり『タクシードライバー』のトラヴィスの合わせ鏡のように脚色しているのだ。