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『ナポレオン』キューブリック主義者リドリー・スコットによる非英雄譚

『ナポレオン』キューブリック主義者リドリー・スコットによる非英雄譚

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『ナポレオン』あらすじ

1789年 自由、平等を求めた市民によって始まったフランス革命。マリー・アントワネットは斬首刑に処され、国内の混乱が続く中、天才的な軍事戦略で諸外国から国を守り 皇帝にまで上り詰めた英雄ナポレオン。最愛の妻ジョゼフィーヌとの奇妙な愛憎関係の中で、フランスの最高権力を手に何十万人の命を奪う幾多の戦争を次々と仕掛けていく。冷酷非道かつ怪物的カリスマ性をもって、ヨーロッパ大陸を勢力下に収めていくが――。フランスを<守る>ための戦いが、いつしか侵略、そして<征服>へと向かっていく。


Index


幻となったキューブリック版ナポレオン



 アベル・ガンス監督の『ナポレオン』(27) 、クラレンス・ブラウン監督の『征服』(37)、キング・ヴィダー監督の『戦争と平和』(56)、セルゲイ・ボンダルチュク監督の『ワーテルロー』(70)。数多くの映画作家たちがナポレオン・ボナパルトという男に魅せられ、その生涯をフィルムに焼き付けてきた。栄光と挫折、勝利と敗北に彩られたその戦いの歴史は、いつの時代も創作意欲を掻き立てられるものらしい。


 スタンリー・キューブリックもまた、ナポレオンに心を奪われた1人。『2001年宇宙の旅』(68)のネクスト・プロジェクトとして、彼は初代フランス皇帝の伝記映画を計画していた。ナポレオン役にはジャック・ニコルソン、皇后ジョセフィーヌ役にはオードリー・ヘプバーンが検討されていたという。その製作意図について、キューブリックはインタビューでこう語っている。


 「彼は私にとって魅力的だからだ。彼の生涯は、行動の叙事詩として記述されている。(中略)彼は歴史を動かし、自分達の時代の運命と来たるべき世代の運命を定めた数少ない人物の一人だった。来たるべき世代の、というのは具体的な意味であって、ちょうど、戦後ヨーロッパの政治的・地理的地図が第二次世界大戦がもたらしたものであるように、我々の今いるこの世界はナポレオンがもたらしたものだということだ」(*1)




 キューブリックはナポレオン関連の書物を読み漁り、ナポレオン研究の第一人者と目される大学教授に会って話を聴き、20人もの専任スタッフを雇って、膨大な調査ファイルを作り上げた。だが、同じくナポレオンを描いた映画『ワーテルロー』の興行的失敗によって、プロジェクトはたちまち暗礁に乗り上げてしまう。長年に渡る綿密なリサーチは、18世紀のヨーロッパを舞台にした『バリー・リンドン』(75)に活かされることになるが、キューブリック版ナポレオンは幻となってしまった。


 月日は流れ、ナポレオンに魅せられたもう一人の映画作家が、ホアキン・フェニックスを主演に迎えて伝記作品を創り上げる。リドリー・スコット監督による上映時間158分の一大巨編、『ナポレオン』(23)だ。思えば、テレビコマーシャルの世界で名を挙げたリドリー・スコットが、映画というジャンルに初めて切り込んだ監督第1作は、『デュエリスト/決闘者』(77)。ナポレオン軍に所属する2人の士官が決闘を続ける物語だった。彼はこう述懐する。


 「私にとって最初の映画『デュエリスト/決闘者』は、ナポレオン・ボナパルトに関するものだった。それが私のキャリアのスタートとなった。ドルドーニュで『最後の決闘裁判』(21)を撮影していた時、ナポレオンという最高のフランス人についての映画を作ろうと思ったんだよ」(*2)





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