『スナッチ』あらすじ
発端はフランキーが強奪した86カラットの大粒ダイヤ。非合法な賭けボクシングのノミ屋に、ダイヤを持って現れたフランキーが襲われた。ダイヤを追うNYマフィアのアビーと、不死身の殺し屋トニー。そこに賭けボクシングのプロモーター、ターキッシュと、ボクシングで賞金稼ぎをしようとする流浪民(パイキー)ミッキーも加わって、すべてが複雑に絡み合い、予測を越えた展開が繰り広げられる。そして、鍵を握るのは気まぐれな一匹の犬。
Index
- 冒頭の数分間、映画の空気を決定づけるスタイリッシュな魔法
- エッセンスとして取り入れた『ワイルド・バンチ』の冒頭演出
- モハメド・アリの画集から得たインスピレーション
- タイトル・バックがなければ、映画の印象は変わっていた?
冒頭の数分間、映画の空気を決定づけるスタイリッシュな魔法
映画の楽しみ方、見どころの一つに“タイトル・バック”という要素がある。それは映画の始まりを告げる重要なイントロダクションであるとともに、観る者を一瞬にして世界観へと引き込む、いわば魔法のような存在。時にはそのインパクトが映画全体の印象や評価を決定づけることだってあるほどだ。
そのスタイルはアニメーションやグラフィックを用いたものから、独特のフォント、ユニークなデザイン、構成内容を持つまで実に様々。それに伝説的なデザイナーたちによる数々の意匠もこの要素を輝かせた。例えば『 めまい』『 サイコ』などのヒッチコック作品で知られるソール・バス(1920~96)や、『 007/ドクター・ノオ』を始めとするボンド・シリーズなどで知られるモーリス・ビンダー(1925~91)などは、この道の神様としてあまりに名高い存在だ。
これら50年代、60年代に作られた名作群が今なお微塵も色あせることなく我々を魅了する一方、90年代に入るとカイル・クーパーが手掛けた背筋が凍るほど猟奇的かつ中毒性を持った 『セブン』のタイトル・バックが新たな時代の扉を開いた。さらにはデザイン集団トマトによる『 トレインスポッティング』での仕事ぶりなども話題となった。
そして、2000年の到来とともにこれまたスタイリッシュな旋風を吹かせたのが、ガイ・リッチー監督による第二作目『スナッチ』である。
『スナッチ』オープニングタイトル
冒頭、ダイヤ強奪の大仕事を終えたベニチオ・デル・トロが車に乗り込むと、どこからともなく軽快なベース音が響き始める。こうしてKlint(セバ&ジョシュ・ハーヴェイ)の楽曲「Diamond」に乗せて、大勢のキャラクターたちが一人ずつバトンリレーを成すかのように、矢継ぎ早に印象深く紹介されていく。それが本作のタイトル・バックの大まかな流れだ。
もとより、超スローモーションやコマ送りや静止などで独特のテンポとリズムを生み出すことを得意とするリッチーだが、このシーンでは一手一手によって観客を大いに湧かせ、「snatch」が持つ「強奪、さっと掴む」という意味さながらに、観客の心を瞬時に掌握。あれから20年近くが経とうとしているが、リッチー自身、これを超える瞬間には未だ到達できていない。