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『遠い空の向こうに』ロケット打ち上げに情熱を注ぐ、青春映画の佳作(前編)

(c)Photofest / Getty Images

『遠い空の向こうに』ロケット打ち上げに情熱を注ぐ、青春映画の佳作(前編)

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ロケ地



 コールウッドの鉱山は1986年に閉鎖されており、ロケを行うにはあまりにも山奥過ぎることが問題となった。そこでバージニア州とジョージア州北部でロケハンが行われたが、コールウッドの雰囲気を持った場所は見付からなかった。


 最終的に選ばれたのは、気候や周囲の地形がコールウッドに似ていたテネシー州東部である。スタッフは、撮影の本拠地をモーガン郡のペトロス(*12)(http://www.coalwoodwestvirginia.com/petros_1.htm) (http://www.coalwoodwestvirginia.com/petros_2.htm)に構えた。かつて、ここにあった炭鉱も閉鎖されていたが、町並みの雰囲気が残っていたことから選ばれている。


 美術スタッフは、まだ多くの設備を残していたノックス郡ノックスビルの廃鉱を購入し、解体してペトロスに再現した。だが、人や資材を揚げ降ろしするための、立坑櫓は残っていなかったため、38mのタワーが新しく建てられている。同時に錆びた桁、巻き上げ装置のプーリー、ワイヤーロープ、バケット、崩れたアスファルト、風化したレンガ、ボロボロのトタン板なども廃鉱から回収され、装飾に用いられた。そして選炭場や、機械工場、鉱山事務所、変電所、洗車場、救護所、図書館、ホーマーの家の外観、町の入口の看板、密造酒製造所、クエンティンの家などがセットで作られ、旧車も多数持ち込まれた。


 最終的にジョンストン監督の古巣であるILMや、マット・ワールド・デジタル社が、マットペインティングで修正しているショットもあるが、そのままでも1957年の雰囲気を、かなり再現している。その正確性は、原作者のホーマー・ヒッカム・ジュニアも驚くほどだったそうだ。そして地元から、2,000人以上のエキストラや俳優が起用された。加えて、全部で200人いたクルーの約60%も、この地域の技術者や労働者だった。


 ペトロスだけでは撮れなかったシーンは、やはりテネシー州の他の町で撮影された。例えばアンダーソン郡、モーガン郡、ロアン郡に跨るオリバー・スプリングスでは、組合の集会所、オルガ・コール・カンパニーの社屋、商店、故障したロイの車を押す4人組、ホーマーの家の内部、ライリー先生の家の外観などがここで撮られている。また、映画のクライマックスの舞台となるインディアナポリスの街並みは、当時の雰囲気を残しているオリバー・スプリングスの中心街で撮影された。「全米サイエンス・フェア」の会場や映画館もここで撮られている。



『遠い空の向こうに』(c)Photofest / Getty Images


 4人組がレールを外す廃線は、第二次世界大戦のマンハッタン計画において、アンダーソン郡オーク・リッジに建設されたウラン濃縮を行う「シークレットシティ」へ繋がる支線で、本物のレールを外す許可も出た。ちなみにSLは、ハミルトン郡チャタヌーガの「テネシーバレー鉄道博物館」から、ロアン郡ハリマンのテネシー川流域開発公社の敷地内に、撮影用に持ち込まれた1911年製の車両「Southern Railway 4501」だ。機関士を演じているのは、有名な写真家のO・ウィンストン・リンクである。


 さらにノックスビルでは、複数の学校を組み合わせてビッグクリーク高校を表現している。また「ケープ・コールウッド」は、モーガン郡ウォートバーグにあった、1998年まで実際に使用されていたボタ山が使用された。


 ただし、テネシー州の天候はまったく安定せず、雨や雪の他、竜巻(*13)の発生で撮影は大幅に伸びてしまった。1日に何度も急変することから、中断して別のシーンを始めることも頻繁に発生した他、4つのシーンを同時にスタートさせたこともあった。


*12 ブラッシーマウンテン州刑務所のある町として知られていたが、2009年に閉鎖された。その後、コンサート会場として改装され、2018年から運営されている。

*13 テネシー州の竜巻の年間平均発生数は15個で、死者数は全米最大。



後編に続く



文:大口孝之(おおぐち たかゆき)

1982年に日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター。EXPO'90富士通パビリオンのIMAXドーム3D映像『ユニバース2~太陽の響~』のヘッドデザイナーなどを経てフリーの映像クリエーター。NHKスペシャル『生命・40億年はるかな旅』(94)でエミー賞受賞。VFX、CG、3D映画、アートアニメ、展示映像などを専門とする映像ジャーナリストでもあり、映画雑誌、劇場パンフ、WEBなどに多数寄稿。デジタルハリウッド大学客員教授の他、女子美術大学専攻科、東京藝大大学院アニメーション専攻、日本電子専門学校などで非常勤講師。主要著書として、「3D世紀 -驚異! 立体映画の100年と映像新世紀-」ボーンデジタル、「裸眼3Dグラフィクス」朝倉書店、「コンピュータ・グラフィックスの歴史 3DCGというイマジネーション」フィルムアート社



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