原作と脚色
このくだりは、脚本家のルイス・コリックが大きく脚色(*3)している。原作によると、警察が学校に乗り込んで来た時、クエンティンがアッサリと照明弾が原因だと見抜いてしまい、逮捕されることはなかったらしい。だから、ホーマーが高校を一度退学して、炭鉱で働いたというのもフィクションである。
でもこのドラマチックな脚色は、大成功したと言えるだろう。ストーリーを感動的にしているだけでなく、クエンティンの家庭環境を表現することにも役立っているし、ライリー先生のホジキン病について触れる流れも自然になっている。そして、ロケット研究に否定的だった校長が、一転して4人組を応援する側に回るのも痛快だ。
*3 脚色という意味では、そもそもロケットボーイズは4人組ではなく、6人だった。また彼らは、廃線のレールを盗んだりはしていない。
あらすじ⑦
4人組はロケットの研究を再開し、校内のサイエンス・フェアで優勝する。そして、インディアナポリスで開催される「全米サイエンス・フェア」に出品が決まるが、校長は「旅費は1人分しか出せない」と言う。するとメンバーは、ホーマーを代表に選んだ。
そのころ集会所では、組合員たちが度重なる人員削減や、賃金カットに対抗するため、会社に対してストライキを起こすと宣言した。
一方ホーマーの家では、翌日のインディアナポリス行きに向けて準備をしていた。すると窓から銃弾が撃ち込まれ、ジョンの頭をギリギリかすめて行く。表に出てみると、ヴァーノンの車が逃げて行くのが見えた。銃弾は、エルシーが趣味で描いていた、マートルビーチの壁画に穴を空けていた。ジョンは「心配することは無い」と家族に言うが、ホーマーと激しい口論となる。そして彼は、「こんな家には二度と戻らない」と怒鳴る。
翌朝、ホーマーは仲間に見送られて出発した。全米サイエンス・フェアでは、2日間の一般展示の後、3日目が審査日となる。初日のホーマーの展示は好評で、参加者たちからの下馬評も高い。安心したホーマーは、夜間に映画『縮みゆく人間』(57)を観に行く。しかし彼が翌朝、会場に戻ってみると、主な展示品であるラバール・ノズルやオークの模型、フォン・ブラウン博士のサイン入り写真などが盗まれていた。
ホーマーは、ロイたちに緊急の電話をかけ、「明日の審査までに間に合わせて欲しい」と依頼する。彼らの頼みを聞いたボールデンは、大至急ホーマーの家に駆け付け、エルシーに「大至急、ホーマーのために新しいノズルを作らなくてはならない。ストライキを中止させるよう、ジョンに言ってくれ」と懇願する。
『遠い空の向こうに』(c)Photofest / Getty Images
エルシーは急いで鉱山事務所に向かい、ジョンに息子の窮地を伝える。しかし、彼はまったく協力しようとしない。そのあまりにも冷たい態度に、激怒したエルシーは離婚を口にする。ジョンは「出て行って、どこに行く気だ?」と問うと、彼女は「マートルビーチよ」と即答する。
ジョンは交渉の場を設けると組合員に伝え、ボールデンに作業を許可した。彼は大至急、新しいノズルを作り、翌朝インディアナポリスに到着するバスに間に合わせる。ホーマーは、エルシーからその報せを受け、電話口の背後にいる人々の歓声に勇気付けられる。
そして審査発表。ホーマーの手には、お守りとしてバイコフスキーの認識票が握られていた。そしてホーマーたち4人の名前が、最優秀賞として読み上げられる。ホーマーの周囲には、たちまちバージニア工科大学など、いくつかの大学から奨学金提供のオファーが来た。その中にいた、フォン・ブラウンからも祝福されるが、ホーマーは彼が誰であるかに気付かない。後で聞かされたが、すでに博士の姿は見えなくなっていた。