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『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』エディプス・コンプレックスの克服を巡る最終章

(C)2024 Lucasfilm Ltd.

『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』エディプス・コンプレックスの克服を巡る最終章

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エディプス・コンプレックスの克服



 リチャード・マーカンドは、『帝国の逆襲』を「アーヴィン・カーシュナー監督のスタイルは、よりダークでメタリックな第2章にとても合っていた」と評している。だが実際には、『ジェダイの帰還』も非常にダークな作品だ。何しろ主人公のルーク・スカイウォーカーが、ほとんどダークサイドに片足を踏み入れているような状態なのだから。


 まるで柔道着のように純白の衣装に身を包んでいたルークは、『帝国の逆襲』で灰色の衣服をまとい、『ジェダイの帰還』では黒いローブを身にまとう。彼は着実にダークサイドに侵食されている。絶対的ヒーローがダークサイドとライトサイドの狭間で揺れ動くからこそ(いや、ほとんどダークサイドに転落しそうになっているからこそ)、このスペースオペラは人間ドラマとして奥行きを持ち得ているのだ。


 皇帝パルパティーンの眼前で、ルークとダース・ベイダーは剣を交える。そしてベイダーはルークの心を読み取り、双子の妹の存在を知る。「お前がダークサイドに入らなくても、妹なら…」と揺さぶりをかけた瞬間、ルークは烈火のごとく怒りに燃え、ダース・ベイダーの右腕を切り落とす。母親に対して強い愛情を抱き、父親に対して敵意を向けるエディプス・コンプレックスが、母=妹に置換された形で現れている。



(C)2024 Lucasfilm Ltd.


 かつてルーク自身も、クラウド・シティの戦いでベイダーに右腕を切り落とされていた。それは、父親からの強制的な“去勢”に他ならない。そして今度は、子が父親に対して“去勢”を実行する。父親を乗り越える。恐れ慄いていた去勢コンプレックスを克服した瞬間、ルークはダークサイドを抜け出して我に返る。『スター・ウォーズ』とは父と子の物語であり、エディプス・コンプレックスにまつわる物語でもあるのだ。


 ルーク・スカイウォーカーを演じていたマーク・ハミルも、この隠されていたサブテキストに敏感だった。「ダース・ベイダーが死んだあと、ルークがそのヘルメットを被る事で、彼の未来に不吉な影を落とすことを暗示する」というアイデアを、彼はルーカスに提案したという。それは将来、ルーク自身がエディプスの父親になることを予感させるものだ。もちろん、こんな曖昧なエンディングは『スター・ウォーズ』にふさわしくないと、ルーカスは却下する。


 思えばテレビドラマ「ツイン・ピークス」(90~91,17)は、主人公のクーパー捜査官がブラックロッジに足を踏み入れ、闇に取り込まれてしまう物語だった。デヴィッド・リンチが『ジェダイの帰還』を監督していたら、マーク・ハミルのアイデアを採用して、より禍々しい輪郭を帯びたシリーズになっていたかもしれない。


 帝国軍との戦いに勝利し、惑星エンドアでイウォークたちと勝利の余韻に浸るなか、ルークは“黒い服”のままで父親を荼毘に付す。ハン・ソロやレイアと抱擁を交わしても、その表情はどこか寂しげだ。父親を死に追いやっても、母親=妹に対する感情は満たされないまま。永遠に成就することのないレイアに対する恋慕が、エンディングの寂寥感に繋がっている。もしポール・バーホーベンが『ジェダイの帰還』を演出していたら、その匂いはより濃厚になっていただろう。


 この映画を思い返すときは、いつだって「If もしも」が頭をよぎってしまう。それもまた、映画ファンの特権だ。


(*1)https://www.denofgeek.com/movies/star-wars-david-lynch-return-of-the-jedi/

(*2)https://ew.com/movies/2018/09/28/david-cronenberg-return-of-the-jedi/

(*3)https://originaltrilogy.com/topic/Interview-With-Richard-Marquand-Director-of-Return-of-the-Jedi-June-1983/id/13176



文:竹島ルイ

映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。



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