2024.05.05
“オリジナルに立ち向かい、それを超える”
『帝国の逆襲』の撮影にあたって、ルーカスはカーシュナーにこんな言葉を投げかけたという。
「『スター・ウォーズ』トリロジーの2作目は、1作目と同等かそれ以上の作品でなければシリーズにならない。(中略)可能な限りオリジナルに立ち向かい、それを超えなければならない」(*3)
『スター・ウォーズ』が偉大なるフランチャイズとなったのは、間違いなく『帝国の逆襲』の成功があったからこそだ。1作目を超えてシリーズ屈指の傑作という声も高い。マスター・ヨーダ、皇帝パルパティーン、ランド・カルリジアン、ボバ・フェットという人気キャラクターが初登場し、あの有名な「帝国のマーチ」(The Imperial March)が流れ、ハン・ソロとレイア姫のロマンスが展開する。何よりもこの映画は、『スター・ウォーズ』にダークな雰囲気を与えた。痛快娯楽大作というよりも、悲劇的な要素が強い本シリーズのトンマナを決定づけたのは、この『帝国の逆襲』なのである。
『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(C)2024 Lucasfilm Ltd.
ルーカス自身は、旧3部作(オリジナル・トリロジー)の中間に当たる本作について、「プロット上の仕掛けは多いとは言えない」と冷静に分析。ルークがヨーダのもとで修行に明け暮れるシークエンスは、必要不可欠ながらもドラマティックな要素は少ないと考え、ハン・ソロとレイアが帝国軍からの追撃をかわそうとするシークエンスと同時進行させることを決断。ルークが己のなかにダークサイドを垣間見る内面描写と並行して、ミレニアム・ファルコン号と帝国軍のエンタメ感満載なドッグファイトを描いた。
思い返してみれば、『ロード・オブ・ザ・リング』(01)も9人の旅の仲間が一路モルドールを目指す直線的な物語だったが、その続編『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』(02)では、フロドとサム、ピピンとメリー、アラゴルンとレゴラスとギムリの、3組のパーティを並行で描くスタイルが採られていた。第1作で世界観の説明は済んでいるからこそ、続編では思いっきり各キャラクターの掘り下げに集中できる。
『帝国の逆襲』は、J・R・R・トールキンによる最も有名なファンタジー小説と同様の構造をまとうことで、物語の強度を高め、登場人物の内面に迫ることに成功したのである。