2024.05.05
巨大なインディーズ映画
ジョージ・ルーカスは、『スター・ウォーズ』のフランチャイズ権で得た収益を元に、銀行からの融資と組み合わせて製作資金を自己調達している。20世紀フォックスから資金提供を受けない代わりに、誰からも侵犯されないクリエイティブの自由を手に入れたのだ。ある意味で『スター・ウォーズ』とは、ルーカスによる巨大なインディーズ映画といえる。
だが実際に撮影に入ると、スケジュールは大幅に遅れ、予算も雪だるま式に超過していく。銀行からの融資もキャンセルされてしまう事態に陥り、ルーカスは資金繰りに奔走した。なんとか別の銀行から新しくローンを組み直すことができても、また予算オーバーの繰り返し。彼はこう述懐している。
「『帝国の逆襲』の撮影を担当したのは素晴らしいカメラマンだったが、照明に時間がかかったね。1作目は1,300万ドルという超低予算映画で、撮影は一晩で済ませていた。だが2作目はその3倍の費用がかかり、撮影にもかなり時間がかかってしまった。それでも低予算で済むと思ったが、そうはならなかった。幸いにも成功して、私はお金を取り戻したけどね」(*4)
その一方でルーカスは、アーヴィン・カーシュナーが自由に撮影ができる環境を整えられるように腐心していた。創造主たる自分の存在が邪魔にならないように、気を配ったのである。
『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(C)2024 Lucasfilm Ltd.
「ジョージはこれまで一緒に仕事をした中で、最高のプロデューサーだったよ。彼は私を放っておいて、何度かイギリスに来ただけだった。ある時私はジョージに、“誰のせいでもないけれど、あまりに複雑なためにスケジュールが遅れている”と言った。セットで行われる特殊効果の多くは、まったく機能しないことが多かったんだ。彼の答えは“今やっていることを続けろ。撮り続けるんだ”。これは監督にとって、プロデューサーから聞いた最高の言葉だったね」(*5)
だがプロデューサーを務めたゲイリー・カーツは、ルーカスはコントロール・フリークの一面があると明言している。
「彼は任せるのが苦手だったんだろうね。彼はすべてをコントロールしたがることもあれば、どこかへ行ってしまい、長い間連絡が取れなくなることもあった」(*6)
『スター・ウォーズ』において、ルーカスの発言は神の一言にも等しい。どこまで自分がこのフランチャイズを支配すべきなのか、支配せざるべきなのか。自ら招いた“師”にどこまで口出しすべきなのか。ひとつ間違ってしまえば、彼自身が支配欲に取り憑かれ、ダークサイドに堕ち、ダース・ベイダーとなってしまう。
ルーカスの心情を窺い知ることはできないが、少なくとも表面的にはアーヴィン・カーシュナーにクリエイティブの自由を保証することで、彼はジェダイのままでいられたのかもしれない。ダークサイドは物語のなかだけではなく、ルーカスの内面にも侵食しようとしていたはずなのだから。
(*1)「巨匠たちとの対談」(2010年)
(*2)https://www.today.com/popculture/george-lucas-mourns-his-mentor-empires-irvin-kershner-wbna40422602
(*3)https://screenrant.com/star-wars-george-lucas-empire-strikes-back-fears/
(*4)https://www.empireonline.com/movies/features/george-lucas-the-empire-strikes-back-interview/
(*5)https://www.vanityfair.com/hollywood/2010/10/irvin-kershner
(*6)https://www.ign.com/articles/2002/11/11/an-interview-with-gary-kurtz
文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。
『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』ディズニープラスにて配信中
(C)2024 Lucasfilm Ltd.