2024.05.09
類人猿に命を吹き込んだ名優とVFX
サルの感情表現という点で、大きな効果を発揮しているのがモーションキャプチャー。これは簡単に説明すると、俳優の演技をデータ化してCGに取り込む方式で、特殊メイクや着ぐるみでサルを作り上げてきた従来の『猿の惑星』とは異なる手法。俳優の動作はもちろん、表情の微妙な変化まで、デジタル上のサルのビジュアルに反映することができる。VFXを担当したWETAデジタルのスタッフは動物園のサルを熱心に観察し、CG化の参考にしたという。
シーザーにふんしたアンディ・サーキスは映画ファンに広く知られているとおり、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでゴラムを演じて以来、モーションキャプチャー演技の分野をリードしている第一人者。ピーター・ジャクソン監督の『キング・コング』(05)に続いて類人猿を演じた本作では、シーザーに細やかな表情をあたえている。ブルーレイの特典の中には、実写のサーキスの演技と映画のシーンを比較した映像も含まれているが、これを見ると彼の貢献の大きさがよくわかるので、ぜひチェックしてみて欲しい。
『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(c)Photofest / Getty Images
監督のルパート・ワイアットは英国出身で、本作が初のハリウッド大作の演出となったが、『猿の惑星』シリーズのスピリット、すなわち人間の傲慢さに対する批判精神をもって物語を演出。科学への過信や行き過ぎた営利主義に警鐘を鳴らす。本作が見応えのあるドラマとなったのは、そんなワイアットの硬派なドラマ作りの手腕に依るところも大きい。
本作は興行的にも批評的にも成功を収め、以後、続編の『猿の惑星:新世紀(ライジング)』(14)、『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』(17)でシーザーの物語をさらに深めていく。注目の新作『猿の惑星/キングダム』は、それから数百年後の物語で、リブート版シリーズの新章ではあるが、シーザーの遺産が受け継がれており、またドラマとしても硬派な魅力が宿る。21世紀に受け継がれた強力な『猿の惑星』サーガを楽しんでいただきたい。
文:相馬学
情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。
(c)Photofest / Getty Images